気を遣うのは“食事”“恋愛”そして“排泄介助”…「介護職員」が明かす過酷すぎる現場の実態
要介護者20年で3倍
誰もが年を取る。いつか多くの人が、家族以外の誰かの手を借りることになる。それが「介護職員」だ。
しかし、この業界も時流に漏れず、深刻な人手不足に喘いでいる。その大きな要因は、他でもない少子高齢化だ。他業種以上に、少ない若者が文字通り“高齢者を支える現場”になっている。
厚生労働省の調査によると、要介護（支援）認定者数は年々増加し、令和4年には697万人に。20年で3倍近く増加している。一方、支える側の介護職員の数は、令和4年の時点で約215万人。介護職員の現場は、訪問系、通所系、入所系、小規模多機能型居宅系など様々だが、単純計算だと1人の職員で3.2人の利用者をケアしているのが現状で、令和8年までには現在よりも25万人、令和22年には57万人が必要になる。国も様々な角度から人材の受け入れ環境の整備を模索しているが、それでも人が集まらないのは、その「過酷さ」にある。
今回は介護職員、主に施設で働く人たちのケースを紹介していきたい。
介護職員が受けるカスハラ
介護職員の労働環境が過酷になる最大の要因の1つは、「カスハラ」の存在だ。
厚生労働省が過去3年間における「顧客等からの著しい迷惑行為」に関する相談の有無を調査したところ、最も割合が多かったのが「医療・福祉」だった。
迷惑行為のなかでも最も多いのが「暴言」だ。UA ゼンセンとヘルスケア労協共同調査が2024年に行った調査結果では、「これまで経験した迷惑行為」のうち81.2%が「暴言」とされている。実際、筆者が取材した当事者からは、こんな声が。
「気に入らないことがあれば、『介護士ごときが』などといった暴言を吐かれる」
「入浴介助の時、『人殺し』と喚き散らしながら暴れる」
「ご家族が来た時に『カネを盗まれた』とありもしないようなことを告げ口される」
ほかにも、「他の利用者の対応のために順番を待っていてもらった利用者が激高し、『無視するな』と刃物をもって脅された」という、あたかも「脅迫」のような行為も起きることがあるという。
また、現場を疲弊させるのはこうした「言葉の暴力」だけではない。
「介助中に腕をつねったり髪を引っ張ったりされる」
「コップを投げられる」「体が接触している際に思い切り噛みつかれた」
といった身体的な暴力や、
「胸を触って来る高齢男性がいる」
「女性ケアマネが自宅に訪問した際、体を触られたり卑猥な言葉を浴びせられたりする」
という、セクハラも横行している。
しかし、利用者によるこうした問題行動が改善されにくいのが介護の現場だ。
介護業は、顧客の身体に直接触れ、利用者の不自由や苦痛を解消しなければならない仕事。そのうえ、サービスの利用者の多くが高齢者だ。高齢者は脳機能の低下によって感情のコントロールが上手くできず怒りっぽくなりがちだ。
さらに利用者が「認知症」を発症していると、その傾向はより顕著に表れるうえ、反省や改善の要求が届きにくくなる。先のUAゼンセンとヘルスケア労協の調査によると、迷惑行為をうけた介護職員のうち、64.1％の人が「認知症・精神疾患のある利用者本人の症状によるもの」と回答。症状のない利用者27.9%よりも約2.3倍多い。
そのため、職員が辛辣なカスハラを受け抗議しても利用者自身に自覚や記憶がない場合もあり、ハラスメントを根本的になくすことは難しいのだ。
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