【戦後80年】淡島千景、若尾文子、高峰秀子を酒とともに…晩夏を乗り切るための昭和の名作「ビール映画」3選

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「何さ」「冗談じゃないよ」とぴしゃりと撥ねつける

 大正初期当時、こんなふうに自我を通し暴れまくる女など「あらくれ」以外の何者でもなかったのだろう。周囲の人々は「女のくせに」「女だてらに」とお島を責め立てる。それでも決してめげず、女が自分の意思を持って行動することの何が悪い、と開き直るお島は今で言えば、完全にフェミニスト。しかも演じる高峰秀子がまたこのうえなくかっこいいのだ。

 何を言われようが、「何さ」「冗談じゃないよ」とぴしゃりと撥ねつける彼女がどれほどかっこいいか、不満げに口をひんまげる姿までもがいかに美しいか、ぜひ見てほしい。怠け者で仕事をさぼってばかりの夫にホースで水を噴射し追い回す豪快さなど、まったく最高だ。

 お島は酒を飲む際にも遠慮なんてまったくしない。不倫相手との別れ話がこじれた夜、さんざん飲み続け酔っ払った彼女は、泊まった旅館の障子をずたずたに壊してしまう。呆れた男は「女のくせにみっともない」と怒鳴りつけるが、妻と別れられず泣き言しか言わない男と、酔っ払って粗相をした女と、一体どちらがよりみっともないのか。ところで飲みたい時には散々飲みまくるお島だが、一方で酒にだらしない男には厳しいようだ。二番目の夫の舅が夫婦の家に泊まり込み、朝からビールでいい気分に浸っているのを冷たく睨み手厳しい言葉でやりこめる様は、いかにも威勢がいい。

 ダメな男たちに振り回されてばかりのお島には誰にも負けない才能がある。それは働いて金を稼ぐ才能。彼女は稀に見る働き者で、どんな仕事であろうと馬車馬のように働くだけでなく、きめ細やかな気配りで周囲の信頼を勝ち得ていく。恋愛や結婚に失敗すればするほど商売の才覚は上がっていく。男に頼らなくても、ひとりで生き抜く強さを十分に持ったお島。いつか彼女が思う存分仕事をし、自ら稼いだ金で美味しい酒を存分に楽しむ姿を見てみたい。

 酷暑が続くなか、多様な女性たちが活躍する昭和の「ビール映画」で一瞬の「涼」を求めるのもまた乙なもの。

月永理絵
映画ライター、編集者。 『朝日新聞』『週刊文春』『CREA.web』などで映画評やコラムを連載中。ほか映画関連のインタビューや書籍・パンフレット編集など多数。著書に『酔わせる映画 ヴァカンスの朝はシードルで始まる』(春陽堂書店)。

デイリー新潮編集部

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