【戦後80年】淡島千景、若尾文子、高峰秀子を酒とともに…晩夏を乗り切るための昭和の名作「ビール映画」3選

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自分の生き方を曲げない強い女性

 過去につくられた映画を見ていると、酒を飲む場面で登場するのは、圧倒的に男性たちのほうが多いと気づかされる。芸者をはじめ、酒場で働く女性たちは大勢いても、友人や仲間と酒場で酒を酌み交わしたり、へべれけになるまで飲んだくれ楽しく騒いだりするような女性たちが登場するには、戦争が終わり女性の社会進出が進むまで待たなければいけなかった。女は家で夫のために甲斐甲斐しくお酌をするもの。男のように飲んだくれて暴れるなんてみっともない。そうした風潮が、お酒を女性から遠ざけていたのだろう。

 けれど、大正初期を舞台にした成瀬巳喜男監督の『あらくれ』(1957)には、酒を飲んだくれ男に叱られながらも、決して自分の生き方を曲げない強い女性が登場する。「あらくれ」として名高い女が、次々にダメな男たちと付き合い、苦難を乗り越えていく物語。原作は徳田秋声の小説で、主人公のお島役を演じるは高峰秀子。

 庄屋の娘に生まれたがすぐに農家に養子に出されたお島は、勝手に決められた縁談を嫌い東京に逃げ出した後、神田の缶詰屋の後妻に迎えられる。だが夫(上原謙)は女遊びが激しいうえに、家では妻を虐め抜く最低の男。結局お島は離縁し、今度は兄の借金のカタに山奥の旅館で女中として働くが、主人(森雅之)と不倫関係に陥り、逃げるように東京へ戻ると別の男(加東大介)と結婚し新たな商売を始める。

 お島は、父親からも夫や愛人からもたびたび叱られる。理由は、彼女がまるで従順ではないこと。自分が納得できなければ結婚式からさっさと逃げ出し、夫から派手な格好はやめろと言われても自分の着たい服を着る。不倫相手からの金の援助の申し出を、自分の面倒は自分で見るからと突っぱねる。暴力夫には暴力で応戦し、自分をバカにする女とはタイマンを張る。

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