【戦後80年】淡島千景、若尾文子、高峰秀子を酒とともに…晩夏を乗り切るための昭和の名作「ビール映画」3選
恋の駆け引きの道具として瓶ビールが
増村保造監督と若尾文子のコンビ作といえば、女の欲望を凄まじい気迫で体現する『妻は告白する』(1961)や『清作の妻』(1965)が有名だ。ふたりが初期に手がけた青春映画では、同じ若尾文子が、影一つない若々しく溌剌とした姿を見せてくれる。『青空娘』(1957)に続いて出演した増村監督の『最高殊勲夫人』(1959)で若尾文子が演じるのは、丸の内の会社で秘書として働き始めた杏子。同じ会社でやはり秘書をしていた杏子の上の姉は、上司である営業部長と見事結婚し、今は家庭を取り仕切る身。自分の成功に味を占め、姉はふたりの妹も夫の弟たちと順に結婚させようと企み、次女と次男に続き、次は三女の杏子と三男の三郎の番、と意気込んでいる。だが姉の思い通りにはさせまいと、杏子は勝手にフィアンセ候補にされた三郎(川口浩)と手を組み、自分たちはそれぞれ別の相手と結婚しようと誓い合う。
意中の相手がいない杏子は、まずは会社で恋人候補を探そうと決意。魅力的な彼女のもとには、会社中の若い男たちがこぞって押し寄せる。そのうちのひとりに誘われ、杏子は会社帰りのデートへ。サラリーマンでごった返すトンカツ屋へ行き、揚げたてのトンカツと瓶ビールを楽しむのが会社員たちの定番のデートコースなのだ。ビールはどれくらい飲むかと問われた男の返す言葉が可笑しい。彼が言うには、瓶ビールを3本飲むと女性にキスをしたくなり、4本飲むと相手に触れたくなるらしい。では5本を飲み、6本を飲むと何が起こるのか。女と男の恋の駆け引きの道具として瓶ビールが粋な役割を果たしてくれる。
杏子の毎日は忙しい。男たちとのデートの合間には三郎との作戦会議を行い、同僚女性の恋のキューピッド役を務めたりもする。だが肝心の結婚相手は中々見つからない。実は彼女の本命は三郎なのだが、横暴な姉の言いなりにはなりたくないし、すでに恋人がいる彼の前ではつい強がってしまうのだ。しっかり者で頭が切れるのに、好きな人の前では素直になれない杏子を生き生きと演じる若尾文子は必見だ。
荒唐無稽な物語と、テンポの良い会話劇、こちらがだめなら今度はあちらへと、めまぐるしく恋のお相手が変わっていくスピーディーな展開は、いかにも王道のロマンティック・コメディ。昭和の時代、丸の内のオフィス街で繰り広げられる恋の鞘当てゲームには、やはり瓶ビールがよく似合う。
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