「反日映画が3本公開!」 中国「反日キャンペーン」の真の狙いとは 櫻井よしこ×垂 秀夫
取り繕うことばっかり考えて……
櫻井 幕末の志士たちには、国家のためには藩もなくなっていい、日本国としてまとまるべきだという国家観があった。世界を見渡し、どういう戦略の中で日本が生きていくべきか。それを彼らは必死に考えた。戦後はGHQに占領されて憲法も変えられて、正しい歴史を学ぶ機会を奪われた。乱暴な言い方をすれば「お前たちは天下国家のことは考えるな。商売をしていればいい」。その枠の中だけでしか、日本人は考えられなくなってしまった。
垂 よく分かります。
櫻井 アメリカがトランプ政権で様変わりして、私たちは自力で中国の脅威に向き合わなければいけなくなってきました。そのような危機に直面した日本は狼狽(うろた)えるばかりです。振り返れば、安倍晋三元総理は政権発足後、中国が求めてきた条件付きの日中首脳会談はしないと決めた。最後は習主席が折れて毅然とした態度を示せましたが、その後の岸田政権しかり、中国と首脳会談をするのが目的になってしまった。また石破首相は、日本会議のメンバーが官邸へ表敬訪問した際に「靖国神社のA級戦犯はどうにかならないか」などと聞いたりするわけです。こういうことを口にすれば“親中派”のように見えてしまう。結果的に中国はまともに相手にしてくれない。本当に向き合わなければならない相手に、毅然とできないのが今の日本国だと思います。
垂 中国のみならず、アメリカに対してもそうですけどね。取り繕うことばっかり考えて、厳しいことを何も言えない。例えば石破首相は、トランプ大統領と初めて面会した際に、銃撃事件で難を逃れたことを引き合いに出して「神に選ばれたリーダーだ」と言ってしまった。クリスチャンである石破首相は、キリスト教的な発想があるからか、あるいは日本国民のためにトランプ大統領と仲良くならないといけないと思ったのか。
櫻井 NATOのルッテ事務総長は、ご機嫌を取ろうと、トランプ大統領のことを「ダディ」と言ったりして。見ていられません。
歴史に裁かれる石破首相
垂 悲惨としか言いようがありませんね。私は早くて10年、あるいは50年、100年後にトランプ大統領は歴史から裁かれる存在だと思う。良くも悪くも、どういう政治家だったのかと評価されるのは間違いないでしょう。その時、東アジアのどっかの首相は「神に選ばれた」などと、おべっかを使っていたとかね。日本の国益のために口走ったとしても、政治家であるならば、それを言ったら歴史からどう裁かれるかを考えないといけない。外交で存在感を発揮した安倍さんと違って、石破首相は日本史の教科書などでは、無視されるかもしれませんが……。
櫻井 石破首相は歴史に裁かれる存在だと思いますよ。
垂 少なくとも私は、中国大使になった時に“歴史でどう評価されるか”を常に意識していました。外交官や政治家は国の歴史をつくる責任があると思います。そういう意識がないから、相手の歓心を買うことしか言えないのでしょう。
櫻井 安倍さんはトランプ大統領のご機嫌を上手に取っていました。でも、決して石破首相のようにこびたりしなかった。例えば、アメリカ産のトウモロコシを中国が買ってくれないと聞いたら、安倍さんは日本が買いますと申し出た。アメリカから1期、2期、3期、4期と分けて買う約束のところ、安倍さんは2期で前倒しで買いますと報告したら、トランプは勝手に“シンゾーが全部買ってくれる”と思い込み、記者会見でも喜んだりしていた。でも、安倍さんは今まで決めた分量を前倒しで買いますって言っただけ。それでトランプがご機嫌をよくするなら、それでいいわけですよ。
垂 それでいいんです。変にこびを売ってはいない。
櫻井 例えば、関税交渉ではドイツのメルツ首相が非常にうまく立ち回っています。毎週のようにトランプ大統領と電話でやりとりをしているそうなんです。テキサス州で大洪水があったら「大変なことですね」とか、減税法案が通過したら「ご苦労でしたね。おめでとう」と言って、コミュニケーションを図っている。翻って、石破首相は電話も苦手で、外交で何を話していいか分からない。だから、総理大臣になるべきではない人がなってしまった。日本国の悲劇です。
垂 電話で思い出しましたけどね。コロナの時期、人的往来が完全に停止しましたが、そんな時期でも習主席はアフリカ、中南米、東南アジアなど数多くの首脳に網羅的に電話外交をやっていました。
櫻井 中国はしたたかですね。日本の首相なんて、遠い小国のことなど考えもしないでしょう。
垂 グローバルサウスからすれば、やっぱり大国の中国から電話をもらえればうれしいですよ。
櫻井 ほんの10分でいいんですからね。電話なら時間もコストもかからない。やる気の問題です。
垂 そういった中国の外交姿勢は、やはり評価せざるを得ないと思います。まだまだ日本もやれることはたくさんありますよ。
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