「反日映画が3本公開!」 中国「反日キャンペーン」の真の狙いとは 櫻井よしこ×垂 秀夫

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フェイク写真、誇張話で反日キャンペーンが

櫻井 大規模な「認知戦」も仕掛けられる予定ですね。

 そうなのです。今年の夏は3本の映画が上映されます。まず、7月31日に中国全土で上映スタートした映画「731」です。旧日本軍の731部隊がテーマなので、この日を選んだのでしょう。

櫻井 ハルビンにいた日本軍の石井部隊が、どれだけ悲惨なことをやったかという中国の主張を示す内容になっているのでしょうね。

 この映画は、私が中国大使だった時から、製作の準備が始まっていました。まさに80周年の目玉です。また、すでに7月25日に「南京写真館」という作品も封切りされています。いわゆる「南京虐殺」の証拠となる写真をテーマにして、旧日本軍の残酷さを示す内容です。しかし、これでキャンペーンは終わりません。

櫻井 まだあるのですか。

 8月上旬に映画「東極島」が上映されました。日中戦争当時、東シナ海に面した東極島の沖合で、旧日本軍の輸送船がアメリカの潜水艦に撃沈されました。大勢のイギリス人捕虜が海に投げ出されたのを、島の中国人漁民が救出した“美談”を基に、旧日本軍の残虐性を誇張した作品に仕上げたものです。

櫻井 ありもしない偽物の写真や誇張話で反日の大キャンペーンが展開される。

 映画そのものは見ていないので、なんとも言えません。いずれにしても、この三つの映画を中国国内で集中して上映させるために、反日でない他の話題作は7月20日までに公開日を早められ、中国映画界の良識派が崖っぷちに立たされています。

櫻井 目を覆いたくなるような事態が起ころうとしているのに、日本側はまったく対応できていませんね。警鐘を鳴らすべき大手メディアの北京特派員たちも、ちゃんと仕事をしているのでしょうか。

外交的な敗北

 日本のメディアは、個別映画の報道はともかく、大キャンペーンの到来や、後に述べる軍事パレードに絡めて大きなピクチャーで報じているものは見当たりません。実は映画にとどまらないのです。7月3日、中国の国務院新聞弁公室が80周年関連の一連の文化イベント(舞台演劇、歌唱会など)を発表しており、この「抗日」大キャンペーンは秋まで続く予定です。私はこうした状況が続くと、在留邦人や日本人学校への襲撃が再発するのではないかと心から心配しています。

櫻井 8月31日と9月1日には「上海協力機構サミット」が北京の隣の天津であります。

 中国、ロシア、中央アジア4カ国、それにインド、パキスタン、イラン、ベラルーシの10カ国の首脳が集結します。そして9月3日には、「抗日戦争勝利80周年」のクライマックスである、大規模な軍事パレードが北京の天安門広場で予定されています。中国共産党は、サミットの首脳たちに来賓として参加してもらう考えです。すでにロシアのプーチン大統領が出席することが決まっています。さらに、アメリカのトランプ大統領も招待されたと報じられていますが、今のところ中国政府は否定も肯定もしていません。韓国大統領も招待されているようです。もしかすれば、北朝鮮も来る可能性があります。ベトナムをはじめ東南アジア各国など、かなりの国の首脳が集まると思います。

櫻井 世界中の国々の眼前で反日キャンペーンが行われる。

 中国国内では、このパレードは“世界の三つの大国による3番目の軍事パレード”と喧伝されています。5月のロシア、6月のアメリカに次ぐもので、量・質とも最大かつ最高の軍事パレードにするとも言っている。他国の指導者らは、中国の威容と人民解放軍の強さを思い知るだろうと大見得を切っています。

櫻井 トランプ大統領は出席するのでしょうか。

 杞憂だとは思いますが、仮にそうなってプーチンと習近平と並べば、日本からすれば北京で“ヤルタ会談”を彷彿とさせる光景が展開されることになってしまう。日本にとっては、戦後80年で再び「敗戦」を迎えることになる。軍事的ではなく、外交的な敗北になりかねない。

櫻井 ブラックジョークです。

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