「反日映画が3本公開!」 中国「反日キャンペーン」の真の狙いとは 櫻井よしこ×垂 秀夫
中国の外交には対米対策しかない
垂 本当にそう。さらに軍事パレードが終われば「918」が待っています。
櫻井 中国では9月18日の満州事変勃発が、日本との戦争が始まった日だと信じられていますものね。
垂 本当に今年の夏から日中関係は歴史問題一色になりますよ。今や中国国内では“石破茂首相を呼んだらいい”という声さえ聞こえてくる。ギャグみたいな話だと思ったら、これまでの石破首相の発言は、基本的に戦争について中国側として歓迎すべき発言が多かったからだと。ドイツの首脳が、先の大戦に関する式典でフランスなどに呼ばれているから、それと同じように、日本の首相も呼んだら面白いんじゃないかとまで言われている。
櫻井 日本は本当になめられたものです。
垂 昔の中国は、日本を大国として認識していましたが、今やそうは思っていません。これは何を意味しているかというと、対日政策そのものがないに等しいのです。誤解を恐れずに申し上げれば、基本的に中国の外交には対米政策しかない。前述したように、中国はマクロ的な視点で物事を見ています。中長期的な中国外交の本質は、自らが求める国際秩序を作ることです。これまでの国際秩序はアメリカに主導されてきた。だから対中外交の本質は戦略的な対米闘争。これが中国の認識です。
「和して同ぜず」
櫻井 そんな中国の前にトランプ大統領が現れた。
垂 トランプ関税は厄介だけれども、実は中国にとって、トランプ大統領は概してくみしやすい相手。バイデン政権が指摘したような体制や人権、民主化の問題には全く関心がない。トランプ大統領が重視するアメリカファーストは自国の貿易赤字を減らし、雇用を創出して経済を立て直すことですから、世界の警察としての地位、役割を手放す方向です。国際社会における影響力が低下するのと同時に、欧州との関係も非常に悪くなっている。関税交渉でアメリカと韓国、日本との関係も非常に緊張感が出てきた。中国からすればこんな都合が良い時はない。冒頭でお話ししたように、日本に対しては“ちょっとエサをまいて引きつけておけばいい”くらいにしか考えていません。
櫻井 なぜこうなってしまったのかを考えてみれば、戦後80年の歴史の中で、日本が独立国として、外交や安全保障をやらなくてもいい環境が続いたからではないか。アメリカの顔色をうかがい、与えられた枠組の中で過ごせばよい。だから、中国がするような戦略的な思考が日本にはない。かような日本人を、中国人はさげすんでいるように思えます。垂さんは中国に物を言った唯一の外交官と評価されていますが、これまで日本はあまりにも言わないできた。その理由は、何も言わなくてもいいという価値観が、対中外交を支配していたからでしょうか。
垂 あえて「論語」で申し上げれば、日本外交は対中のみならず、対米も含めてすべて「和を以て貴しとなす」という姿勢でした。しかし一方で、「論語」には「和して同ぜず」という言葉もあるのです。協調は大事だけど「同ぜず」、つまりは自分の本質を失ってまで相手に合わせる必要はない、という意味です。その姿勢こそが、今のわれわれに求められているのではないでしょうか。外交官としての本質は国益の追求。国民の税金を原資とする給料をいただいていたわけですから、他国との協調を求めつつも国益を守るためなら、たとえ相手にとって不愉快なことでも言うべきは言う。私はそう信じて仕事をしてきました。
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