「反日映画が3本公開!」 中国「反日キャンペーン」の真の狙いとは 櫻井よしこ×垂 秀夫
日本の政治家は”ガチの交流”を
垂 日本の政治家はもっと中国に足を運んだ方がいいとは思います。ただし、相手に尻尾を振りに行くのではなく、言うべきことは言ってくる。そういう意味でのガチの交流をしてほしいと思います。水産物の輸入解禁にしても、当初から日本政府は「福島第一原発のALPS処理水は科学的に問題がない」ことを、IAEAと話し合いながら、サンプリング調査を2カ所やることで示していた。それに加え、中国側の要求で、もう1カ所調査をやることにしたわけですよ。ところが、いざ解禁となったら「福島を含む10都県は除く」とされている。福島で自らも調査して問題ないと分かっているのに、福島などの水産物は解禁できないと。こんな非科学的な話はない。日本政府が一歩でも事案を進めようとしていることは理解できますが、中国側が日本側に寄り添って来ているわけじゃないことを、少なくともわれわれはよく理解しておく必要があるでしょう。
「対日攻勢」が強まる
櫻井 実際、この夏には中国の「対日攻勢」が強まることを、多くの日本人は気付いていませんね。
垂 その通りです。歴史問題が相当厄介なことになるでしょう。今年の夏は、中国共産党にとって「抗日戦争勝利80周年」の節目にあたります。中国はこれを最大限に利用して、世界に超大国パワーを示したいと考えています。それが国威発揚と、習国家主席のさらなる権威の向上につながる。日中関係において歴史問題がヒートアップするのは間違いありません。それでなくても暑い夏なのに……。
櫻井 劫火の夏になる。
垂 すでに兆候は現れています。まず盧溝橋事件記念日である7月7日、ブラジルで行われたBRICSサミットに習主席は姿を現しませんでした。主要新興国との外交に熱心だったはずの彼は、今年は抗日勝利80周年のキャンペーンをより重視したのです。具体的には、北京の西南にあたる山西省を訪問しました。ここは日中戦争において、かの国で「百団大戦」と呼ばれている大規模な戦闘が勃発したところです。100個以上の連隊が集まって何十万人もの共産党軍が、旧日本軍と初めて正面から戦闘を行った記念地を訪れたのです。
櫻井 旧日本軍が相当痛い目に遭い、局地的に共産党の八路軍が初めて勝った戦いですね。
垂 毛沢東の時代から今に至るまで、中国共産党の“背骨”のように通っているのが「抗日戦争勝利」なのです。まぁいわば、中国共産党の正統性のよりどころと言ってもよいでしょう。ところが、実際に旧日本軍と戦ったのは蒋介石の国民党軍。毛沢東は戦略家でしたから、八路軍の消耗を避けるため、主に農村でのゲリラ戦を展開して逃げ回っていたのが実態で、ひそかに農村部に根拠地を固めていた。実は百団大戦だって、毛沢東は自分の指示に忠実に従わなかったとして、勝った後に現場の指揮官であった彭徳懐に激怒しているくらいです。毛沢東にすれば、“愛国主義に惑わされるな!”ということです。
櫻井 その通りですね。
垂 記念すべき節目に、内外から“本当は抗日戦争って国民党軍が戦ったんだけど”などと、陰口を言われるのだけは避けたい。中国共産党だって、旧日本軍と本格的に戦った栄光の歴史があったことを、習主席は内外に示す必要があったわけです。
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