「彼女だけじゃなく、僕もズボンをはぎ取られ…」 アメリカ滞在中の日本人カップルを襲った「最強のレイプドラッグ」の悪夢

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飲まされると眠気に襲われて「記憶が飛ぶ」

 ここで、本稿のテーマ薬物である「GHB」について簡単に触れておこう。

(1)そもそもGHBとはどんなドラッグなのか
GHBは中枢神経を抑制する(強烈な麻酔作用を有する)薬物で、法律名(化学名)は「四-ヒドロキシ酪酸」、GHBはその別名「ガンマヒドロキシ酪酸(Gamma-Hydroxybutyric acid)」の略称である。日本で麻薬規制されたのは2001年。むろん、海外でも規制されているが、米国ではでナルコレプシー(※日中に耐え難い眠気に襲われる睡眠障害)の改善薬や、麻酔薬として使われている。

「無味・無臭・無色」で水に溶けやすい。体内での代謝も速やかで尿から検出できるのは8~12時間とされている(※覚醒剤の体内残存期間は10日~約2週間)。つまり、使用直後に尿検査をしなければ何を飲まされたか特定が難しいということになる。

(2)どのように悪用されているのか
鎮静や多幸感、性的欲求の向上を得る目的で乱用されるほか、一定量以上を摂取すると意識喪失や昏睡、記憶障害を起こすため、性的暴行のみならず強盗(昏睡強盗)にも使われている。アルコールと併用すると効果が増強され、レイプドラッグとして世界中で悪用されていることは前述のとおりだ。飲まされると15~30分で強い眠気を覚えて動けなくなり、意識が飛んでしまう。効果は3~6時間続くとされ,被害者は目が覚めても一過性健忘症を発症していて記憶がない。加害者はこれ逆手にとって「合意があった」と主張する。高用量を摂取すると発作、心拍数の低下、呼吸や体温の著しい低下を招き、死に至ることもある。

(3)ストリートでの隠語は?
 欧米では「G」「GHB」「イージ(EASY)」「レイ(LAY)」「リキッドⅩ(LIQID X)」「グープ(GOOP)」「スクープ(SCOOP)」などと呼ばれている。日本では「GHB」が一般的だが、「媚薬」と称して販売されていた事件もある。

日本や韓国でもGHBを押収

(4)GHBに似たレイプドラッグはあるのか。
GHBの前駆物質である「GBL(ガンマブチロラクトン)」や「BD(1.4-ブタンジオール)」などの類似物が代替品として使われている。その他、前述したケタミンやフルニトラゼパムといったベンゾジアゼピン系の向精神薬が悪用されている。

(5)GHBは日本でも密売されているのか。 最近の検挙事例は?
日本でのレイプドラッグとしては“睡眠薬”が先行しているため、GHBはあまり見かけない。規制前はアダルトショップなどで、合法ドラッグの名称で、類似物のGBLとともに結構な量が販売されていたと記憶している。だが、その後に鎮静化した。最近では2020年8月に、警視庁がGHB液体を密売していた男5人を逮捕。GHB液体約1.3リットルと、のり状のGHB約120グラムを押収している。男らはGHB「10ミリリットル入り液体」1本を4000円で販売。約2年間で6000万円以上を売り上げていたという。

 近年では韓国でも「ムルポン(水ポン)」という隠語で蔓延している。2021年には類似物を含め2万8800グラム(96万回分の使用量)が押収されている。

 後編【「HIVに感染していたんです…」 レイプドラッグを飲まされて“集団暴行”の被害に遭った日本人カップルの悲劇】では、2人の男女を見舞った地獄のような体験について詳報している。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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