「彼女だけじゃなく、僕もズボンをはぎ取られ…」 アメリカ滞在中の日本人カップルを襲った「最強のレイプドラッグ」の悪夢

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ライブ会場で注射器を刺しまくる「ニードル・スパイキング」

 数ある薬物犯罪のなかでも、被害者の心身に深い傷を負わせる点で「レイプドラッグ」が絡む事件は悲惨さが際立つ。日本では、カラオケやバーで知らぬ間に飲み物に睡眠薬を混入されて――というのがそのイメージだろう。だが、海外におけるレイプドラッグ事件は、その犯行の酷さも規模も日本とはケタ違いで、しかも、被害者は男女を問わない。たとえばアメリカでは、酒を提供するナイトクラブやバーに対し、飲み物に薬物が混入していないか調べる検査キットの提供を義務づけている州もある。レイプドラッグをめぐる事件がそれほど“日常茶飯事”となっているのだ。それどころか、もはや“無差別テロ”と呼ぶべき事件まで発生している。【瀬戸晴海/元厚生労働省麻薬取締部部長】

 イギリスと中国で10人の女性に麻薬「GHB」を投与してレイプした中国人の男が、6月16日、イギリスの刑事裁判所から終身刑を宣告された。ロンドン警視庁によれば、この男は60人以上の女性を標的にしていたという。

 フランスでは6月21日の野外音楽フェスティバルの最中に145人が注射針で刺される「ニードル・スパイキング」事件が発生。容疑者12人が拘束されているという。「ニードル・スパイキング」とは注射器を使って、被害者の脚や尻などにレイプドラッグを注入する行為を指し、この事件でもGHBが使われた可能性があるという(現在、分析中)。

「GHB」とは“最強のレイプドラッグ”と呼ばれる麻薬である。実は、筆者もいまレイプドラッグが絡んだ暴行事件に対応している。日本人男女が、アメリカで見ず知らずの男たちにGHB入りビールを飲まされレイプされたというのだ。被害者の2人は、ドラッグパーティーの最中に襲われているため、「自分たちも薬物をやっていたので訴えることができなかった」と大いに後悔している。

 薬物が凶悪犯罪のツールに使われていることを読者に改めて知ってもらいたく、今回はプライバシー保護を考慮して、時期やシチュエーションなど一部の情報を変更した上で、この事件を紹介したい。

「2人ともその場でレイプされたということか?」

 アリ(仮名・24)は中学生のころから大麻など様々な薬物を経験してきたという。筆者は麻薬取締官時代に何度か彼女の薬物事件にかかわってきた。急性中毒で錯乱した彼女を緊急搬送したこともある。以来、なぜか懐いてきて、人生の節目節目で連絡をしてくる。その彼女から1年半振りに電話があった。

「相談したいことがあるので、彼と行くから話を聞いてもらえませんか?」

 数日後、アリが彼氏の蒼太(仮名)と一緒にやってきた。26歳の蒼太はアリの大学時代の先輩で付き合い始めて約1年。すでに同棲しているという。ともに鍛え上げられたダンサーの体型で実に見栄えがいい。だが、普段は明るいアリの表情は終始、曇っており、傍にいる蒼太もうなだれている。

――どうした。何があったか話してみなさい

「……」

――よほどのことみたいだな。話せる範囲でいいから。

 改めて尋ねた。アリは暫く黙していたが、突然、頷くと意を決したように話し始めた。

「オークランドのパーティーで“GHB”を混ぜたビールを飲まされて、数人の男にレイプされちゃって……。Drink spiking で“be roofieid(※後述)”というやつです。朦朧とするなか、“Jap! Fuck you asshole”と嘲笑されたのを覚えています。この言葉がずっと耳から離れません。身体の隅々まで知らない男たちの体液や匂いが染みついていて、気持ち悪いし、悲しいし、悔しくてなりません……。録画されていたらどうしよう。死にたくなっちゃいます。でも、私たちもドラッグをキメていたので、どうすることもできなかったんです」

「Drink spiking(ドリンクスパイキング)」とは、飲み物へ薬物を混入する行為を言う。「be roofieid(ルーフィド)」とは、睡眠薬のロヒプノール(転じてレイプドラッグ)が混入した飲料を飲まされ、昏睡した状態を意味するスラング英語だ。

――なんだって? 蒼太君は一緒じゃなかったのか。

「僕も意識をなくしまして。ズボンを剥ぎ取られたところまでは、おぼろげに覚えているのですが……」(蒼太)

――ええ! つまり、2人ともその場でレイプされたということか?

「いまでも信じられませんが、気づいたらそういうことになっていて……」(蒼太)

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