球界のご意見番といえば「喝!」ですが…「カツを入れる」を漢字で書けた人は“3割未満”という「校閲あるある」
「無碍」と「無下」
今回はもう一つ、「無碍」「無下」についても少し触れておきます。
「価値のないものとして扱う」といった意味を表す「むげに扱う」「むげにする」を漢字で書くと「無下に扱う」「無下にする」が正解です。「無碍」も「むげ」と読みますが、「融通無碍」(ゆうずうむげ。考え方や行動が自由でのびのびしている様子、の意)などと使われます。
しかし現実には、上記の意味でも「無碍に扱う」「無碍にする」としている原稿が非常に多いです。SNSやネット上の使われ方においても同様でした(ちなみに「無碍」は「無礙」でもよいのですが、この「礙」はほとんど見かけません)。
理由としては、パソコンやスマートフォンの変換で「無下」だけでなく「無碍」も上位に出てきて、「下」より「碍」のほうが、見た目上“何となくサマになってる”“雰囲気が出る”と考える人が多いからではないでしょうか。手書きの原稿であれば、「碍」は画数が多くて書くのに時間がかかりますが、スマホやパソコンなら変換で一発です。
校閲者としては、あくまで「別の字」なのですから、「価値のないものとして扱う」という意味の場合、「無碍に扱う」は「無下に扱う」とする疑問を出すべきでしょう。ただ、「無碍」が多く使われるのもよく理解できます。
このように、全く別の字なのにたまたま「読みが一緒」だっただけで混同が起き、“本来の漢字の意味”よりも“雰囲気”が優先されていつの間にか定着してしまう、という例が日本語には多々あります。無下に扱ってばかりもいられません。



