球界のご意見番といえば「喝!」ですが…「カツを入れる」を漢字で書けた人は“3割未満”という「校閲あるある」

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「無碍」と「無下」

 今回はもう一つ、「無碍」「無下」についても少し触れておきます。

「価値のないものとして扱う」といった意味を表す「むげに扱う」「むげにする」を漢字で書くと「無下に扱う」「無下にする」が正解です。「無碍」も「むげ」と読みますが、「融通無碍」(ゆうずうむげ。考え方や行動が自由でのびのびしている様子、の意)などと使われます。

 しかし現実には、上記の意味でも「無碍に扱う」「無碍にする」としている原稿が非常に多いです。SNSやネット上の使われ方においても同様でした(ちなみに「無碍」は「無礙」でもよいのですが、この「礙」はほとんど見かけません)。

 理由としては、パソコンやスマートフォンの変換で「無下」だけでなく「無碍」も上位に出てきて、「下」より「碍」のほうが、見た目上“何となくサマになってる”“雰囲気が出る”と考える人が多いからではないでしょうか。手書きの原稿であれば、「碍」は画数が多くて書くのに時間がかかりますが、スマホやパソコンなら変換で一発です。

 校閲者としては、あくまで「別の字」なのですから、「価値のないものとして扱う」という意味の場合、「無碍に扱う」は「無下に扱う」とする疑問を出すべきでしょう。ただ、「無碍」が多く使われるのもよく理解できます。

 このように、全く別の字なのにたまたま「読みが一緒」だっただけで混同が起き、“本来の漢字の意味”よりも“雰囲気”が優先されていつの間にか定着してしまう、という例が日本語には多々あります。無下に扱ってばかりもいられません。

甲谷允人(こうや・まさと Masato Kouya)
1987年、北海道増毛町生まれ。札幌北高校、東京大学文学部倫理学科卒業。朝日新聞東京本社販売局を経て、2011年新潮社入社。校閲部員として月刊誌や単行本、新潮新書等を担当し、現在は週刊誌の校閲を担当。新潮社「本の学校」オンライン講座講師も務める。

デイリー新潮編集部

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