球界のご意見番といえば「喝!」ですが…「カツを入れる」を漢字で書けた人は“3割未満”という「校閲あるある」
こんにちは、新潮社校閲部の甲谷です。
今回もクイズから始めます。
週刊誌や新聞の記事では、「IT」(=インフォメーション・テクノロジー。情報技術の意)、「SNS」(=ソーシャル・ネットワーキング・サービス。インターネット上の交流サービスの意)といった英語の略語が出てくることもありますよね。では、次の言葉は何の略語でしょうか? ちなみに、1はデラックス、2はフジテレビ……ではありません。
1.DX 2.CX 3.QOL 4.NFT
【回答】皆さん、分かりましたか?クイズの答え合わせをしてみましょう
「喝を入れる」は誤用?
〈「君が書いている連載、『「校閲者」はここを見る』だっけ……? あれなぁ、もっと面白いこと書きなさいよ!」
上司が私に喝を入れた。〉
上の一文には間違い(と言われるもの)があります。何でしょうか?
答えは、「この連載、面白いじゃないか!」……ではありません(正解にしたいくらいですが)。「喝を入れた」は本来「活を入れた」と表記する、というのが答えです。
この話は、以前取り上げた「ちりばめる」などと同様、「校閲あるある」の筆頭格に挙げられるものです。
パソコンの日本語入力システム「ATOK」(エートック)を開発・販売するジャストシステム社のホームページには、約70万人が受験した「全国一斉!日本語テスト」(2006年)の結果の概要が載っていますが、このテストの中で最も正答率が低かった問題がまさにこの「活を入れる/喝を入れる」(*選択肢には「渇」もあり)だったそうです。正解の「活を入れる」を選んだ人の割合はなんと23.3%!
なぜ、これほどまでに「喝を入れる」が世の中に浸透しているのでしょうか。いつも通り、複数の辞書を確認しながら考えていきます。
辞書の見解はほぼ一致
まず、「広辞苑 第7版」を引いてみます。
〈かつ【活】いきること。勢いよく動くこと。「死中に活を求める」
◎活を入れる→(柔道などで)気絶した人を蘇生させる術を施す。転じて、刺激を与えて元気づける。気力を起こさせる。
かつ【喝】大声を出すこと。大声で叱ること。特に、禅宗で励まし叱るときの叫び声。また、大声でおどすこと〉
このように、「喝を入れる」が誤用である、とは書いていないものの、「活を入れる」については詳細に説明されており、広辞苑ではそもそも「喝を入れる」という表記を想定していないようにも思えます。「岩波国語辞典 第8版」や「新明解国語辞典 第8版」でも特段の解説はありませんでした。
一方、「喝を入れる」は誤りである、とはっきり書いている辞書も複数、存在します。
まず、「明鏡国語辞典 第3版」は“「喝を入れる」は誤り”と明記しています。また、高校生向けの辞書「三省堂 現代新国語辞典 第7版」にも“感動詞の「喝」とまぎれて「喝を入れる」と書くのは誤り”とあります。高校の漢字テストで「喝を入れる」と書くとバツになるでしょう。
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