球界のご意見番といえば「喝!」ですが…「カツを入れる」を漢字で書けた人は“3割未満”という「校閲あるある」
「サンコクさん」はどうか
さて、ここで真打登場です。当連載で何度も取り上げている、新語・新表現に強い「サンコクさん」(「三省堂国語辞典 第8版」)の記述を確認してみます。
〈活を入れる〔「カツを入れる」とも書く〕(1)気絶した人を刺激して、息を吹き返させる。(2)活力をあたえる。(3)気持ちのたるんだ人、おびえている人などを、しかる(ようにはげます)。
かつ【喝】〔禅宗で〕まちがった考えや迷いをしかってさとらせるときの声。[!]「活を入れる」は別のことば。〉
……どうでしょうか。読者の方の中には、「サンコクさんなら“喝を入れる”もOKにしているはずだ!」と考えた方がいらっしゃったかもしれません。私も内心、そう期待しながら辞書を引きましたが、実際には掲載されていませんでした。
ただ、「サンコクさん」の文面をよく読むと、「明鏡」や「現代新国語」とは違って「喝を入れる」を“誤り”とはしていません。「活を入れる」と「喝(を入れる)」は「別のことば」と書いているのです。
これはどういうことか。拡大解釈かもしれませんが、「(禅宗でまちがった考えや迷いをしかってさとらせるときの声を発するときのように)相手に向かって大声を発する」というような意味であれば、「喝を入れる」が完全なる誤用であるとは言い切れない、とサンコクさんはこっそり囁いているようにも思えます。あくまで私見ですが……。
日曜朝の「喝!」
とはいえ、複数の辞書の最新版で「誤り」とはっきり書かれていることからも、ゲラ上で「喝を入れる」が出てきたときは「活を入れる」に変更する指摘を入れるのが現状では無難である、と思います。
心配であれば、辞書名を書いておけば説得力がグンと増します。校閲者の独りよがりな意見ではないことを示せますし、著者の方には判断材料の一つになります。
ただ個人的には、校閲という仕事を度外視すると、「喝を入れる」のほうが“雰囲気”が出るなあ、とも感じます。
それはもしかすると、日曜朝のニュース番組「サンデーモーニング」(TBS系)のスポーツコーナーに出演していた野球解説者の張本勲さんが、朝から元気よく「喝!」を連発し、ボードに「喝」の字がどんどん貼られていくのを毎週見ていたからかもしれません。
張本さんの「喝!」は本来の意味に近い用法ですが、あのイメージが強いからこそ、「ぴしゃっと叱る」という意味で「喝を入れる」という言葉を使いたくなる気持ちが理解できるのです。
なお、「毎日新聞校閲センター」さんがこの言葉について触れていたweb記事では、「一喝する」という代案が提示されていました。なるほど、これなら「喝」の字も入っていますし、雰囲気が削がれにくいですね。
[2/3ページ]

