「憮然として」の本来の意味は「ムッとして」ではなかった…校閲者が考える「意味を誤解した俗用表現」が生まれる理由

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 こんにちは、新潮社校閲部の甲谷です。

 今回もクイズから。

「米」「英」「仏」など漢字一文字で表せる国名はたくさんありますよね。では、次に挙げる漢字一文字が表している国は何でしょうか? 漢字の読みから連想できるものも多いです。

 1.稲 2.乳 3.豚

「憮然としてにらみつける」は誤用?

「お前ってホント、大事な時に限ってミスが多いよなぁ」。私がそう言うと、彼は憮然とした表情で私をにらみつけた。

 ……上のような文章をよく見かけますよね。

 この文章の中で出てくる「憮然」(ぶぜん)の使い方は“誤用”である、と言われることがあるのですが、一体どういうことでしょうか? 今回はこの話を深掘りしていきます。

新しい意味のほうが圧倒的に……

 最初に、「広辞苑 第7版」の記述を確認します(以下、辞書はすべて最新版を使用しています)。

〈ぶぜん【憮然】1.失望してぼんやりするさま。失望や不満でむなしくやりきれないおもいでいるさま。(中略)「憮然として立ちつくす」2.あやしみ驚くさま〉

 このように、「憮然」はもともと、1のように「ぼんやり」もしくは「がっかり」するさまを表していて、「呆然」などに近い意味だったようです。2の「あやしみ驚く」というのは、現在ではあまり見かけない意味のように思えます。

 しかし、冒頭の例文のように、「憮然」という語句は最近では「怒りに満ちて」「むっとして」といった意味で使われることもあります(以下、この意味を「新しい意味」と表記します)。「憮然」は文学作品や週刊誌の記事などでもよく見られる表現ですが、仕事上でも新しい意味で見かけることのほうが圧倒的に多いように思います。体感で9割くらいでしょうか。

 次に、この連載では何度もお世話になっている、文化庁「国語に関する世論調査」を見てみましょう。平成30年度の調査で「憮然」が取り上げられていました。

 この調査では、もともとの意味である「失望してぼんやりしている様子」が正しいと答えた方が28.1%、「腹を立てている様子」は56.7%、とダブルスコアで新しい意味が優勢でした。また「憮然」は同調査で平成15年、平成19年にも取り上げられていましたが、過去にさかのぼるに従ってむしろこの逆転現象は強くなっています。

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