年間損失額は1兆2000億円! 放置される「男性の更年期障害」は社会問題 予防に役立つ食事とは?

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ビタミンDと亜鉛

 また、山形大学医学部の教授らの研究グループによる調査では、異性への関心度合いによる死亡リスクに関して、中高年女性では差が出なかったものの、中高年男性の場合、関心がない人のほうが早死にする傾向があると報告されています。さらに、フィリピンの研究では、育児に積極的に関わる「イクメン」は精巣が小さいとも指摘されています。言わずもがな、だから男性は育児をするべきではないなどという話では全くありませんが、ガツガツとしていて草食系ではない人の方がテストステロンの値は高い傾向にあります。

 ちなみに、米国の女子大生にテストステロンの値が高い男性と低い男性の顔を見せると、高い男性のほうが好まれたというデータや、英国ではテストステロンの値が高い人のほうが年収が高かったという調査結果も出ています。

 テストステロンを増やすのに役立つ方法としては、運動、精神的活動以外に食事も挙げられます。特に指摘されているのが、ビタミンDと亜鉛の摂取不足による悪影響です。従って、ビタミンDを多く含むサケやサバ、亜鉛が豊富な赤身の肉、牡蠣(かき)などの貝類を積極的に取るよう心がけるといいでしょう。また、テストステロンの生成に関与するDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)を多く含む山芋や、テストステロンの分泌を促進するビタミンEが多いアボカドもお薦めです。

現代的な病気

 最後に、男性更年期障害の「現代的問題点」について改めて触れておきたいと思います。

 そもそも、男性に限らず更年期障害には「現代的な病気」という側面があります。先ほど説明したように、テストステロンのピークは20歳ごろで、以降は低下していきます。太古の昔は、そのピーク付近の10代の後半で子どもを作り、テストステロンが低下した30代で寿命を迎えるのが一つのスタンダードであり、テストステロンの低下による不調に悩む更年期を迎えること自体が少なかったと考えられます。

 しかし、幸いなことに現代は寿命が延び、人生100年時代のいまは、テストステロンのピーク後に80年も生きることが可能です。その80年を健康的に過ごすためには、テストステロンの低下をできるだけ防ぐことが重要になってきます。

 また少子高齢化の流れの中で、社会全体の生産性を保っていく意味においても、更年期障害を予防し、高齢になってもアクティブに活動することが社会的にも求められています。男性更年期障害は「個人」の問題であると同時に「社会」の問題でもあると述べたゆえんは、この点にもあるのです。

「男のプライド」にこだわり男性更年期障害であることを認めず、放置する――。あらゆる観点から、いまはそのような“男らしさ”が求められる時代ではないのです。

井手久満(いでひさみつ)
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科特任教授。1967年生まれ。宮崎医科大学医学部卒業。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本メンズヘルス医学会・日本抗加齢医学会副理事長。前立腺がん、ロボット手術、男性更年期障害が専門。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校ハワードヒューズ研究所研究員、獨協医科大学教授などを経て現職に。

週刊新潮 2025年7月17日号掲載

特別読物「年間損失額は1兆2000億円 80代でも発症する『男性更年期障害』を防ぐ」より

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