「運動が大腸がんのリスクを下げるのは”確実”」 筋肉から分泌される天然の万能薬「マイオカイン」とは

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役立つ道具

 とはいえ、特に体力が衰えた高齢者の場合、いきなり腕立て伏せやスクワットをやれと言われても、負荷が強過ぎて尻込みしてしまったり、現実的に難しかったりする人も少なくないと思います。そういう人は、いきなり「高み」を目指さず、できるところから始めても全く問題ありません。

 そのために役立つ道具の一つは椅子です。例えばスクワットでも、床の近くまでお尻を落とし、再び持ち上げるのはかなりしんどいかもしれません。しかし、椅子から立ち上がるスクワットであれば、負担が少なく、取りかかりやすいのではないでしょうか。

 腹筋も、床に寝そべって上体を起こす運動はしんどくても、椅子に座ったまま脚を引き上げて浮かすのであれば、そう難しくないはずです。やってみると分かりますが、普段運動をしていない人の場合、この「脚上げ腹筋」でも筋肉に負荷がかかっていることが実感できると思います。

 また、腕立て伏せなどが困難であれば、やはり椅子に座ったまま両手に500ミリリットルのペットボトルを持ち、腕を上げ下げするだけでも、上腕三頭筋や肩の筋肉が鍛えられます。

食材を有効活用するテクニック

 さらに、同じ筋トレをしても、マイオカインの分泌をより効率化するために、食材の有効活用がテクニックとして挙げられます。

 例えば、鮭に豊富に含まれる赤色の天然色素のもとであるアスタキサンチンは、強力な抗酸化物質であるとともに、ミトコンドリアを良い状態に保ってくれます。理想的には鮭を1日2切れ食べると、アスタキサンチンの摂取量としては十分なのですが、現実的にはなかなか難しいでしょう。従って、鮭の他にも、エビやカニなど、アスタキサンチンを含む食材を、気が付いたらできる範囲で食べるように心がけるといいでしょう。

 また、腸内環境を整える乳酸菌ヨーグルトや食物繊維を摂ることも筋肉の働きをよくすることがわかってきました。

 このように、食材を生かしながら「パンデミック」である運動不足を解消し、筋肉を鍛えてマイオカインを分泌させる。これは2000年代以降に加わった新たな「健康常識」といえるでしょう。

 筋肉を鍛える。それはさまざまな疾患リスクを減らす、つまり健康寿命を延ばすための最も身近で手軽な方法の一つなのです。

青井 渉(あおいわたる)
京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授・医学博士。

週刊新潮 2025年7月10日号掲載

特別読物「老化と病気を防ぐ健康ホルモン『マイオカイン』で元気になる運動法」より

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