「運動が大腸がんのリスクを下げるのは”確実”」 筋肉から分泌される天然の万能薬「マイオカイン」とは
「全がん予防ホルモン」に
マイオカインは600種類以上あるといわれていますが、その中で働きがはっきりしているのは50種類ほどです。主だった働きを挙げるだけでも、骨の形成を促進する、血管に作用して劣化を予防する、脳や神経に作用してその働きを高めるなどがあります。
例えば、「マイオカイン第1号」とも呼ばれるインターロイキン-6は、量によっては抗炎症反応を引き起こし、体に有益な作用をもたらします。
また、アイリシンというマイオカインには、メタボリックシンドロームの原因となる白色脂肪を、褐色化(ブラウニング)させる働きがあります。
脂肪細胞には2種類あり、白色脂肪は体の中の余分なエネルギーを脂肪として蓄積する“悪玉脂肪”で、褐色脂肪は脂肪を燃焼させて熱に変える“善玉脂肪”です。アイリシンは、悪玉脂肪をブラウニングして善玉脂肪に変えるという実によくできた働きをしてくれるのです。つまり、運動をすると脂肪が落ちるのには、このアイリシンの分泌が関係していたわけです。
さらに、私たちのグループが発見したSPARCというマイオカインは、驚くべきことに大腸がんを予防する働きをしてくれます。
以前から、運動が大腸がんの予防に効果的であることは、疫学調査の結果で広く知られていました。その要因の一つと考えられるSPARCは、大腸がんの細胞に直接的に作用するのに加え、代謝改善や抗炎症効果によって間接的にがん化を防ぐことが分かっています。代謝改善や抗炎症効果は、大腸がんだけではなくあらゆるがんに有効だと考えられますので、SPARCが「全がん予防ホルモン」と呼ばれる日が来るかもしれません。
「がんに効く、副作用のない安全な薬」
付言すると、世界がん研究基金とアメリカがん研究協会の報告によれば、運動が大腸がんリスクを下げるのは「確実」です。ちなみに食物繊維のそれは「可能性大」、ビタミンDなどは「可能性あり」で、つまり、運動が大腸がんリスクを下げるというエビデンスのレベルは相当高い。言ってみれば、私たちの体は「(大腸)がんに効く、副作用のない安全な薬」を自ら作り出している。この素晴らしい物質を分泌してくれるのが、他ならぬ筋肉なのです。
その他、マイオカインに関する健康効果の例を以下に紹介しておきたいと思います。
○脳に到達し、うつや統合失調症、アルツハイマー病に関与するとされるキヌレニンという物質を、“質のいい筋肉”はキヌレン酸という新たなマイオカインに変える。
○カテプシンBというマイオカインは、海馬の神経の脱落を防ぎ、認知機能の低下を予防。先ほど紹介したアイリシンも記憶力・認知機能の低下を予防する。
○インターロイキン-15などのマイオカインは、コラーゲンの生成を促し、肌のハリを保って美肌効果を発揮する。
○VEGFというマイオカインは毛細血管を増殖させ、血行を良くする。
――まさにマイオカインは、筋肉が分泌する“天然の万能薬”とでも呼ぶべきもので、これが「運動すると体の調子が良くなる」メカニズムなのです。例えば、体を動かすと血糖値が下がりますが、このことにもマイオカインが関係するのです。
では、マイオカインを分泌するにはどうすればいいのでしょうか。
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