「運動が大腸がんのリスクを下げるのは”確実”」 筋肉から分泌される天然の万能薬「マイオカイン」とは

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 寝たきりにならないためにも筋肉は鍛える必要がある。それは分かっている。でも、率直に言って筋トレは面倒くさい……。そんな人に朗報だ。筋肉からは健康ホルモンが分泌され、“天然の万能薬”の役割を果たしてくれるのだ。何もアスリートのように鍛えずとも。【青井 渉/京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授】

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 果たして、筋トレとは誰のためのものなのでしょうか?

 激しい運動をするアスリート、ボディラインを美しく見せたい人、できるだけ長く自分の脚で歩き、寝たきりにならず自立的に生きたいと願う中高年……。確固たる目的意識を持った人のためのものと思われがちかもしれません。

 しかし筋トレの効果とは、物理的に「筋肉を大きくしたり太くしたりすること」にとどまりません。筋肉を鍛えることで、「超健康物質」とでもいうべきホルモンが分泌されることが明らかになっているのです。

 このホルモンの存在によって、筋肉を鍛えることの意味が革命的に変わったと言っても過言ではありません。肉体を鍛え、身体能力をアップさせるだけでなく、筋肉は病気や老化の予防に直接的に関与するからです。つまり筋トレは、病みたくない、老いたくないと願う万人のためのものなのです。キーワードは超健康物質であるホルモン、「マイオカイン」です。

「筋肉もホルモンを分泌する」という大発見

〈京都府立大学大学院生命環境科学研究科の青井渉准教授(運動生理・栄養科学)は、筋肉から分泌されるマイオカインの研究を続け、その健康効果を実証し、「筋肉と健康」についての啓発を続けているが、なにもストイックに筋トレに励む必要はなく、それぞれができる範囲で行うことが重要だと説く。なぜなら、筋肉こそ健康の源であるから、と。〉

 運動は体にいい。

 これは、誰もが知識として、あるいは実感として理解している常識だと思います。でも、どうして体を動かすことで健康がもたらされるのか、そのメカニズムを聞かれるとよく分からず立ち止まってしまう人も多いのではないでしょうか。運動が体にいいという漠然としたイメージはあるものの、一体、具体的に運動の「何」が体にいいのだろうか、と。

 科学的にも、運動することで病気のリスクが下がるといった現象は疫学調査でさまざまに報告されていましたが、それがなぜなのかは解明されていない部分がありました。

 ところが、2000年代、「筋肉研究」の世界で大きな発見があり、その答えの一端が明らかになります。運動し、筋肉が活動することによって、筋肉自体から何らかの物質が分泌されていることが分かったのです。それがマイオカインです。

 マイオカインが発見されるまでは、ホルモンを分泌するのは脳などの一部の器官や内臓に限られると考えられていました。しかし、筋肉もホルモンを分泌していたのです。この発見により、筋肉の存在意義が大きく変わることになります。

 筋肉の働きとは何か。一つは体の各部位を動かすことであり、もう一つは脂肪や糖を燃焼させてエネルギーに変えることでした。そこに、マイオカインの分泌が加わったのです。

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