「がんになっても日常生活が送れている」 自らもステージ4の医師が実践する「がん共存療法」の確かな可能性 「標準治療の中央値を大きく超える生存期間」の患者も

ドクター新潮 ライフ

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費用負担の少ない「がん医療」の可能性

 昨今、高額療養費制度の見直しが大問題になったように、ステージ4のがんに対する薬剤費の個人的負担は大きなものになっている。今後さらなる高額化が予測されるがん医療の薬剤費は、従来以上に大きな社会的課題になるだろう。

 ところが、今回の第1弾臨床試験に使用した薬剤費は抗がん剤TS-1も含めて最大で1人1カ月5万円弱であった。また、第1弾臨床試験に修正を加えた第2弾臨床試験では1人1カ月約3万5000円だ。

 このことは、現在の高額な標準治療とは別に、その取り組みの視点を変えることで、費用負担の少ない「がん医療」があり得ることを示唆しているといえるだろう。

 ところで、「がん共存療法」臨床試験の取り組みが、1年以上にわたってNHKの取材を受けていた。その経過が、3月、4月にわたってNHK BSなどで3回放映された。臨床試験が始まった経緯や臨床試験参加者のエピソードを交え、私も含めてそれぞれの思いが伝えられた。

 視聴した皆様からの感想は「考えさせられた」「感動した」など種々あったが、臨床試験に理解を示す人々からは、先述してきたような「がん共存療法」の可能性があまり伝わってこなかったことが残念だったと言われた。

 私は「不偏不党を掲げているNHKだから、エビデンスレベルの低い現状を、肯定的に放映することは難しかったのだと思う」と応えた。

他の固形がんに対する有効性

 当「第1弾臨床試験」は、対象者数が少なくエビデンスレベルは低いが、副作用で標準治療から途中離脱せざるを得なかった、ステージ4の大腸がん患者さんの選択肢になり得る可能性を示している。

 また、理論的には肺がんや胃がんなど塊を作る他の固形がんに対する有効性も示唆している。

 さらに、費用負担も含め将来のがん医療の在り方にも一石を投じるだろう。

 今後、多くの医療機関の協力を得て、エビデンスレベルの高い、規模の大きな臨床試験に取り組むことができればと願っている。

 幸い、日本財団の笹川陽平名誉会長からは、引き続きの支援の励ましを頂いている。

 国や都道府県などにも、日本社会の未来を見据えた「がん共存療法」に注目を頂き、上記のような臨床試験の取り組みへの支援をお願いしたいものである。

山崎章郎(やまざきふみお)
医師。1947年、福島県生まれ。千葉大学医学部を卒業し、同大附属病院などに勤務。90年『病院で死ぬということ』(日本エッセイスト・クラブ賞受賞)がベストセラーになった。その後は緩和ケアに取り組む。6年前に、大腸がんステージ4との診断を受け、抗がん剤だけに頼らない「がん共存療法」を模索。2022年、その歩みを記した『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)を刊行した。

週刊新潮 2025年7月10日号掲載

特別読物「ステージ4の緩和ケア医が実践 『がん共存療法』3年目の確かな可能性」より

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