「がんになっても日常生活が送れている」 自らもステージ4の医師が実践する「がん共存療法」の確かな可能性 「標準治療の中央値を大きく超える生存期間」の患者も

ドクター新潮 ライフ

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標準治療の中央値を超えた

 A氏は最初から標準治療に拒否感を持つ標準治療無治療者、B~D氏は標準治療を開始してみたが、副作用のため途中で離脱せざるを得なかった参加者だ。

 B氏は標準治療の1次治療終了後離脱、C氏は1次治療途中離脱、D氏は2次治療終了後離脱だった。

 そのため、当臨床試験は、A氏は標準治療の1次治療、B、C氏は2次治療、D氏は3次治療に相当することになる。

 臨床試験期間中の副作用としては4名中2名に軽度の下痢が出現した。

 また臨床試験期間中のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生命の質)調査では、A氏は不変だったがB~D氏のQOLは臨床試験参加前よりも改善していた。

 この臨床試験の目的でもある「無増悪生存期間」の延長についてであるが、『がん化学療法レジメンハンドブック改訂第8版』(羊土社、25年)が例示する、標準治療の「無増悪生存期間」中央値は1次治療の場合には12.1カ月、2次治療の場合には8.4カ月、3次治療の場合には5.6カ月となっている。

 当臨床試験における最長無増悪生存期間は1次治療に該当するA氏約7カ月、2次治療に該当するB氏約15カ月、C氏約9カ月、3次治療に該当するD氏は約12カ月だった。A氏以外は全員標準治療の中央値を超えていることになる。

 また、臨床試験の期間を延長したことによって、当初は想定していなかった「生存期間」についても検討できるようになった。

通常の日常生活を送れるように

 その前に、以下の2点を念頭に置いていただきたい。

 1点目はステージ4の大腸がんを抗がん剤TS-1単独で治療した場合の生存期間中央値は約12カ月という報告(04年)があること。

 2点目は、先述した『がん化学療法レジメンハンドブック』が例示する最新の標準治療の生存期間中央値は、1次治療の場合には31カ月、2次治療の場合には16.8カ月、3次治療の場合には10.8カ月であるということだ。

 上記を踏まえてA~D氏の、臨床試験開始時から終了までの生存期間を見ると、全員23カ月前後であり、これは先述したTS-1単独療法の約2倍に相当し、かつB~D氏3名は、標準治療の中央値も大きく超えていることが分かる(なお、A氏の場合は、臨床試験期間が標準治療の生存期間中央値31カ月よりも短いため比較は困難)。

 全員、転移病巣は増大し続けているため、いずれ病状悪化は避けられないが、25年1月からは第1弾臨床試験に修正を加えた第2弾臨床試験に参加しつつ、今も仕事も含め通常の日常生活を送っている(なお、現在、第2弾臨床試験の参加応募は締め切られている)。

 今後、以下の二つのような可能性が考えられる。

(1)標準治療とのコラボ

 今回の臨床試験は既述したようにがんの代謝特性に基づいた三つの代替療法と「少量抗がん剤治療」を併用したものだったが、A~D氏は三つの代替療法を併用したことで、TS-1単独療法の効果を大きく上回ったものと思われる。

 以上より、今後、副作用を最小限に抑え、QOLを保持したまま、生存期間の一定の延長を目指す「がん共存療法」は、標準治療の限界を補完・代替できる治療法と位置付けられる可能性がある。

(2)高額がん治療費の軽減

 25年4月10日の朝日新聞オンライン記事に、全国のがん専門医で作るJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)医療経済小委員会が実施した、17種類のステージ4のがん患者の、標準治療における月ごとの薬剤費の調査結果が掲載されていた。

 それによれば、月50万円以上の治療を受ける人の割合は中央値で59%。また、17%の患者は月額100万円以上の治療を受けていたとのことであった。

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