「がんになっても日常生活が送れている」 自らもステージ4の医師が実践する「がん共存療法」の確かな可能性 「標準治療の中央値を大きく超える生存期間」の患者も

ドクター新潮 ライフ

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糖質を制限し、高脂肪食に

 がんも含めた全ての生物は、成長し存在を維持するためのエネルギーと栄養を必要としている。

 そして、際限なく分裂・増殖するがんは、その代謝特性として大量の糖質を必要とすることが分かっている。

「がん共存療法」は、その特性に焦点を当てた治療法だ。具体的には、下記のとおりである。

(1)まずは、がん細胞の増殖を抑制する目的で、がんが必要とする糖質を制限し、糖質に代わるエネルギー源として高脂肪食にする。

 糖質制限下での高脂肪食は、新たなエネルギー源になり、かつ、基本的にがんには利用されない抗がん効果のあるケトン体も産生する。上記は「糖質制限ケトン食」といわれている。

「がん共存療法」では体力を維持するために成人に必要な1日の総摂取カロリーは減らさないことが原則だ。もちろんたんぱく質も、しっかりと取る。

(2)同時に、食後の上昇した血糖値を下げるインスリンは、がん細胞の増殖因子でもある。そこで、食後血糖値の上昇を極力抑制し、結果としてインスリンの分泌も抑制してがん細胞の増殖を抑制するために、糖尿病治療薬メトホルミン(M)を食前に服用する。さらに、抗がん効果のあるビタミンD(D)やEPA(E)を併用する。

MDE糖質制限ケトン食

 (1)、(2)を併せて「MDE糖質制限ケトン食」と表現しているが、当療法では、これが基本的治療である。

 次いで、それぞれの療法の安全性を確認しながら、一定期間毎に(3)がんの増殖抑制効果があるといわれているクエン酸などを使用した「クエン酸療法」や、(4)大腸がんに適応のある経口抗がん剤TS-1を、副作用を出さないことを前提に低用量から開始する「少量抗がん剤治療」、次に(5)がん組織の酸性化や、がん細胞内のアルカリ化を抑制してがんの増殖抑制を目的にした「アルカリ療法」を積み重ねていく。ただし、この「アルカリ療法」は、臨床試験開始以降の知見で途中から追加している。以上が臨床試験の実際だ。

 第1弾臨床試験に最後まで参加した患者さんは7名(40代~60代の女性3名、男性4名)だった。そのうちCT検査で効果を評価するRECISTという基準で、客観的評価可能な参加者は5名。うち1名は特例的に「MDE糖質制限ケトン食」のみでの経過観察となったため、「がん共存療法」の総合的な効果を適切に評価できる参加者は、最終的には4名(A~D氏)だった。

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