「がんになっても日常生活が送れている」 自らもステージ4の医師が実践する「がん共存療法」の確かな可能性 「標準治療の中央値を大きく超える生存期間」の患者も

ドクター新潮 ライフ

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挫折感と無力感を抱えたまま死に向かうことに

 まず、標準治療が一番良いと言われて、他の人は辛くても頑張っているのに自分は頑張れなかった、という挫折が一つ。

 次に、「早く死にたいわけではない」と、「わらにもすがる思い」でさまざまな代替療法を探し求めるが、足元を見るがごとく法外な費用を前にして諦めざるを得ない人も少なくない。二つ目の挫折だ。

 そして挫折感と無力感を抱えたまま死に向かうことになる。それら患者さんたちの切ない思いに、もっと目を向けるべきだったのだ。

 私は、前述のような患者さんたちの思いに応えるために、標準治療を補完・代替する、副作用が少なく、安全で、高額でない選択肢を模索することも、医療の大切な役割なのだと考えるようになった。

数年にわたって「がん共存療法」を実践した結果

 そしてたどり着いたのが「がん共存療法」という概念であった。

 それは「がんの増殖を可能な限り抑制し、少しでも長く穏やかに、自分らしく生きることが可能な『無増悪生存期間』(がんの増殖を一定の幅の中で抑制している期間)の延長を目指す治療法」というものだ。

 それを可能にすると思われる代替療法に関する書物を探し求め、なるほどと思える取り組みを、数年にわたって自ら実践してみた。

 結果、多発転移病巣の多くは縮小・消失し、現在では左右肺に複数の小さな転移病巣が残っているのみだ。

 詳細については『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書、22年)をご参照いただきたい。

 ただし、拙著は私自身の個人的体験に基づいて記述したものであり、エビデンスのあるものではない。

 そこで、それを実証する目的で、標準治療から離脱せざるを得なかった、肺や肝臓に転移のあるステージ4の大腸がん患者さんを対象にした臨床試験に取り組むことにした。

 さまざまな経緯があったが、最終的には東京都小金井市にある聖ヨハネ会桜町病院や公益財団法人日本財団など、多くの関係者の理解と協力の下に、23年1月から24年12月まで、医師主導型自主臨床試験として「第1弾『がん共存療法』臨床試験」が実施された(当初は23年1月から24年6月までを想定していたが、諸般の事情で24年12月まで延長した)。

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