小4児童に「体罰」「差別」「死に方教えたろうか」…告発された「教師による史上最悪のいじめ」は「モンスターペアレント」の“でっちあげ”だった 【映画公開】福岡「殺人教師」冤罪事件とは

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 6月27日、映画「でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男」が公開された。

 出演者に綾野剛(主演)、柴咲コウ、亀梨和也などを迎え、監督は「バイオレンスの巨匠」と呼ばれる三池崇史氏。豪華キャストとスタッフに加え、その問題提起の鋭さで話題沸騰の作品だ。

 公式サイトによれば、内容は以下の通り。

〈2003年 小学校教諭・薮下誠一は、保護者・氷室律子に児童・氷室拓翔への体罰で告発された。体罰とはものの言いようで、その内容は聞くに耐えない虐めだった。これを嗅ぎつけた週刊春報の記者・鳴海三千彦が“実名報道”に踏み切る。過激な言葉で飾られた記事は、瞬く間に世の中を震撼させ、薮下はマスコミの標的となった。誹謗中傷、裏切り、停職、壊れていく日常。次から次へと底なしの絶望が薮下をすり潰していく。一方、律子を擁護する声は多く、“550人もの大弁護団”が結成され、前代未聞の民事訴訟へと発展。誰もが律子側の勝利を切望し、確信していたのだが、法廷で薮下の口から語られたのは「すべて事実無根の“でっちあげ”」だという完全否認だった。これは真実に基づく、真実を疑う物語〉

 この映画、実話が原作である。2003年、福岡市の小学校教師が、担任児童を自殺強要や、凄惨な暴力でPTSDによる長期入院に追い込んだとされ、「殺人教師」とまで報じられた「教師によるいじめ」事件――。当時の「週刊文春」は、教師が「死に方教えたろうか」と恫喝したとまで報じた。ノンフィクション作家の福田ますみ氏は現地で取材を重ね、この一連の事実は児童両親による「でっちあげ」だったことを明らかにした。その顛末をまとめた著書『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫)は、第6回新潮ドキュメント賞を受賞した。

 事件から22年、教育現場には変わらず、いや当時にも増して「モンスターペアレント」が蔓延り、教師や学校はその対応に疲弊している。映画公開を機に、福田氏が「新潮45」誌で記した事件の深層レポートを再録し、教師や学校を蝕む「モンペ」の危険性を改めて考えてみよう。

【前後編の前編】

【福田ますみ/ノンフィクション作家】

(以下は、「新潮45」2013年3月号記事の再録です)

 ***

処分は取り消された

 2003年、「週刊文春」によって、「史上最悪の『殺人教師』」と、実名入りで糾弾された人物がいる。福岡市の小学校で、同年5月、自分が担任する当時9歳の児童に対し、人種差別による体罰やいじめ、自殺強要を繰り返してPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹患させたとして、マスコミから猛烈なバッシングを浴びた。

 その人物から、(2013年)1月18日、私の下に電話が入った。久しぶりに聞くその声はいつになく弾んでいた。

「福岡市人事委員会の判定で、処分が取り消されたんです」

「福岡市教育委員会が下した停職6か月の処分がすべて取り消されたってことですか?」

「そうです。昨日、弁護士さんから連絡がありました」

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