小4児童に「体罰」「差別」「死に方教えたろうか」…告発された「教師による史上最悪のいじめ」は「モンスターペアレント」の“でっちあげ”だった 【映画公開】福岡「殺人教師」冤罪事件とは

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停職6か月

 担任を外され学校を追われた川上教諭に対し市教委は、停職6か月という厳しい懲戒処分を言い渡した。

 主な認定内容は次の通りである。

 川上教諭は裕二に対し、「ミッキーマウス」や「アンパンマン」「ピノキオ」などの体罰を4月から6月にかけて断続的に行った(しかし、日時、体罰の態様、頻度は一切不明である)。

 裕二のランドセルをゴミ箱に置く、あるいは入れるという行為や、10数えるうちに行為を完了するよう、いわゆる「10カウント」を行った。授業中やレクリエーション時などに裕二に対し、「アメリカ人」「髪の赤い人」などと言った。家庭訪問時の「血が混じっている」発言も、人権意識を欠いた教師にあるまじき行為である。

 これらの行為や発言が裕二に差別を受けたと感じさせ、さらに、こうした教諭の一連の行為が、自分より弱い者に対し一方的な攻撃を加える「いじめ」の定義にも合致するとしている。

虚言を信じた弁護士550人

 これを受けマスコミは、「教師によるいじめ」を市教委が全国初認定したとして、大きく報じた。しかし、「週刊文春」はじめマスコミが飛びついた「血が穢れる」発言、人種差別によるとされるすさまじい体罰、怪我などは一切認定されていない。目撃者も皆無で、医者による診断書も存在しない。

 市教委はまた、教諭が、当初は事実と認めていた内容の多くを否定または変更し、関係者全員に混乱をもたらしたことも、懲戒処分の理由とした。

 一方浅川夫婦は、この処分の後に診断の出た裕二のPTSDを理由に、03年10月、川上教諭と福岡市を相手取って約1300万円(最終的に約5800万円)の損害賠償を求める民事訴訟を起こした。代理人弁護士は、前例のない児童虐待事件に憤りを感じ、約550人もの大弁護団を結成した。

信用性は大きく揺らぎ

 ところが裁判では、驚くべき事実が次々に明らかになった。まず、浅川家には“アメリカ人の血”は存在せず、和子が周囲に語っていたアメリカ絡みのこともすべて嘘だった。その上、重度のPTSDと診断されて入院した裕二に、PTSDの症状は皆無だったことがカルテによって明らかになった。肝心のいじめ、体罰、自殺の強要についてもなんら立証できず、浅川親子の供述の信用性は大きく揺らいだ。

 私が現地で取材した際も、裕二の同級生たちは誰ひとりとして、「帰りの会」で行われた川上の体罰を見ていないことがわかった。子供たちは新聞やテレビの報道に、「何それ、全然違う。体罰やいじめなんてなかった」と声を揃えた。

 こうして、次第に原告側の不利に傾いていった裁判だが、2006年7月、2008年11月に言い渡された1審と2審の判決はいずれも、教諭の体罰やいじめは「相当軽微」としながらも、その一部を認めて福岡市に損害賠償を命じた。しかし一方で、体罰による怪我、自殺の強要、「血が穢れている」という差別発言、裕二のPTSDについては原告側の主張を退けた。

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