小4児童に「体罰」「差別」「死に方教えたろうか」…告発された「教師による史上最悪のいじめ」は「モンスターペアレント」の“でっちあげ”だった 【映画公開】福岡「殺人教師」冤罪事件とは

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姑息な法廷戦術

 どうして一部の体罰やいじめが認められてしまったのか。裁判官は、川上教諭とともに被告である福岡市が、既に川上の違法行為をある程度認めて懲戒処分を行っていることを重視したのである。刑事事件でたとえれば、被告が罪を自白していることになるからだ。

 さらに控訴審では、原告の代理人弁護士による姑息な法廷戦術によって、教諭への控訴だけが取り下げられてしまった。これは、事実関係全てを争っている厄介な教諭を外し、懲戒処分で認定した範囲内の体罰やいじめについては争わない福岡市とだけ、PTSDの有無に絞って戦うということである。

 これによって教諭は、かろうじて「福岡市の補助参加人」として裁判に参加することはできたものの、「川上は、被告ではなく被控訴人(福岡市)の補助参加人なので、被控訴人が自白している事実を争うことはできない」(判決文)となり、被告としての主張や反論権を奪われてしまった。そのため、教諭側が提出した有力な証拠(体罰やいじめを否定した5人の子供たちの証言)も無効になってしまったのである。

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 とはいえ、主要部分ではほとんど川上教諭側の主張が認められるなど、教諭の実質的な勝訴判決であったとの見方も出来る。少なくとも川上教諭が「殺人教師」であるとの報道は、完全に「でっちあげ」であることが明らかになったのだ。

 その後、冒頭で述べたように、川上教諭の懲戒処分も取り消された。では、なぜ市教委はかくも理不尽な認定をしてしまったのか。「モンスターペアレント」への対応は、適切なものだったのか。【後編】で詳述する。

福田ますみ(ふくだ・ますみ)
1956(昭和31)年横浜市生まれ。立教大学社会学部卒。専門誌、編集プロダクション勤務を経て、フリーに。犯罪、ロシアなどをテーマに取材、執筆活動を行っている。『でっちあげ』で第六回新潮ドキュメント賞を受賞。他の著書に『スターリン 家族の肖像』『暗殺国家ロシア』『モンスターマザー』などがある。

デイリー新潮編集部

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