母の介護は妻まかせで「プラトニック不倫」に酔ってたら… 聞き間違い?認知症の母からの衝撃の一言
聞き間違い?母から言われた衝撃の言葉
燿子さんは今も精一杯、介護を続けている。介護は先が見えない。子育ては子どもの成長があるから大変だが楽しいものだ。だが介護に希望を見いだすのは難しい。子育てをしながらその状況をしのいできた妻の心情を思うと、なんともやりきれない。
「つい先日、母の寝室を覗いたら目が合ったんです。母が何か言おうとしているので顔を寄せたら、『おまえは死ね』って聞こえました。びっくりして顔を見たら目をつぶっている。でもあのとき確かに死ねって言った気がするんです。体の震えが止まらなかった」
罪悪感からくる聞き違いなのか、あるいは母はすべて見通しているのか。どうやら燿子さんも彼の行状には気づいているようだ。何も言わないが、長年、夫が別の女性に心をもっていかれていることをわからない妻はいないのかもしれない。
「ふたりともすべてを知っていると思った瞬間、なんだか本当に怖くなってしまって。態度を改めるなら今しかないんだろうとわかってはいます。双子は今年からそれぞれ違う大学に通っています。末っ子は高校生になりました。改めて考えたら、僕はあまり子どもたちともコミュニケーションをとってこなかった。今が家族という形を整える最後のチャンスかもしれない。そう思う半面、家族の形なんてどうでもいいのかもしれないとも思う。子どもたちが僕をどう思っているのかわからないけど、どうしようもないオヤジだったと言われてもかまわない。今はまだ子どもたちへの責任はありますけどね」
それならすべてを捨てて、美香さんと一緒になればいいのだが、会社も家族も捨てられないのだろう。そこにはやはり築いてきた時間と思い出がありすぎる。
「自分が岐路に立っている実感はあります。従業員のことを考えたら会社だけは続けなければいけない。会社と家庭は切り離せないので、離婚したら会社も失う。自分がずるいのはわかっているんですけどね……。このままではいけないんだろうか。そう思ってしまうんです」
彼の気持ちは美香さんにあるが、責任感は会社と子どもたちにある。では妻の燿子さんに、彼は何を捧げるのだろう。会社も子どもたちも、妻あってこそ得たものではないのだろうか。彼自身が、「自らのどうしようもなさ」に気づいているからこそ、個人的に責める気にはなれないのだが、この先、彼の母親がいなくなったとき、妻はどういう態度に出るのだろうか。
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「このままではいけない」とわかっていながらも、康太朗さんは決断できずにいる。彼は順調すぎた人生のなかで何を思い、どう道を外れていったのか。その始まりは【記事前編】で紹介している。
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