「ハイパー・アテンション」から「ディープ・アテンション」へ…“教養”獲得への第一歩は“瞬間的な快楽”からの脱却
「集中型読書」から「拡散型読書」へ
社会全体にもこのことはいえます。みんな理解や結論を性急に求めるあまり、手持ちの乏しい杜撰な論理で点と点を結んでは陰謀論めいた解釈へと陥ってしまいがちです。もちろん、わたし自身がそうでないともいいきれません。ビジネスでも起業や新プロジェクトは続々と誕生するけれど、問題はそれらをどれだけ持続させられるかでしょう。長さや未決への耐性を社会全体が失っている。
最近、容易に答えの出ない不確実な状態に耐えるという意味で「ネガティブ・ケイパビリティ」という用語が話題にのぼるのもそのためです。こうした事態を解消するためにも、個人個人の長さへの耐性を地道に養うところからはじめるしかないと思います。
そのためにも、情報の摂取と遮断を意識的にスイッチングする必要があります。かつてはアクセスできるコンテンツが現在と比べればずいぶん限定されていましたから、特定のものをじっくり読んだり見たりする以外になかった。そのなかで自然と「長さへの耐性」が養われたのですね。ところが、いまは視界に入るコンテンツの数が無限化している。アクセス可能な選択肢が激増した結果、必然的に目の前のひとつひとつとじっくり向きあうことができなくなっています。環境的に目移りせざるをえない。
歴史家のロルフ・エンゲルジングが18世紀後半に西洋で起こった「読書革命」について論じていますが、そのころ出版物が爆発的に増えたことで、人びとの読書のあり方が決定的に変わったというのですね。特定の書物をくりかえし精読する「集中型読書」から、多数の雑誌をとっかえひっかえ速読する「拡散型読書」へと変化した。あれと同じ変化が現在は動画や各種コンテンツの世界で進行している。
再帰的な不自由
受験生の勝負も、勉強どうこうの以前に、スマホの電源をオフにできるかどうか、端的にその一点にかかっています。スマホ以外にもいくつもの「〇〇〇〇断ち」がことごとく価値をもつくらい、わたしたちは文学者のキャサリン・ヘイルズがネットの草創期に指摘した「ハイパー・アテンション」の状態にあります。あらゆる方面に注意を過剰に向けてしまうそうした状態を、ひとつの対象に没入する「ディープ・アテンション」の状態へと切り替える。そのための耐性づくりと体制づくり（ダジャレです）からはじめないといけないのでしょう。かつての、情報が遮断された、いまから見れば不自由な時代へと人工的に逆行する、いわば「再帰的な不自由さ」をつくりだす必要があります。
「第1回」の冒頭で名前の出てきた東浩紀さんが創業したゲンロンカフェでは、4時間、5時間、ときに7時間もの長いトークイベントが行われるのですが、会場のお客さんはそのあいだ、目の前でくりひろげられているトークを聴いて、自分であれこれ思考をめぐらすくらいしかやることがないのですね。その状態、まさに来場者に考えてもらうことこそが狙いなのだと東さんはいいます。
あらゆるサービス提供側にとっては、たとえばこうした時間性やコンテクストを確保する仕組みをどう実装するかが長期的に見て持続の鍵をにぎるはずです。ユーザー側はユーザー側で、自分なりにそうした環境を自覚的につくって、コンテクストを再発見する気持ちが教養の獲得には不可欠です。まずは、そこからじゃないでしょうか。
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第1回『「ひろゆき」のショート動画が“知的好奇心”の入り口に…本を読まないことは“教養の否定”と言えるのか』では各メディアがこぞって取り上げる「教養」の本質について大澤氏が語っている。
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