介護のプロが親の介護をしない理由とは 「親への虐待に発展してしまうケースも」
「自分のために」介護をしてしまう
このような「介護」と「管理」の勘違いがどうして起きるのかといえば、「介護の目的」をはき違えてしまっているせいです。
介護は何のために行うものでしょうか? 言わずもがな、高齢となった親に、心身の状況や環境に応じてできるだけ長く、穏やかに過ごしてもらうためです。実際、2000年にスタートした介護保険法は、「高齢者の自立支援」を目的としていて、決して「介護する家族の不安の解消」を目指したものではありません。
ところが、管理に走る子どもは、「自分のために」介護をしてしまう。親が「かつての親」でなくなっていくという「自分の中の不安」を解消するために、介護という名の管理をしてしまうのです。
しかし、いくら子どもが頑張ってもその不安が解消されることはありません。親はどんどん年老いていき、できないこともどんどん増えていくからです。ですから、算数ドリルを親に無理強いする子どもは、はなから到達できないゴールを目指しているようなものなのです。
また、親と離れている時に何か起こるのが怖いからと、家にカメラを付けて24時間監視体制を取っている人もいますが、それで不安が解消されたという人に会ったためしがありません。逆に、常に親の行動が気になり、不安は増すだけです。
仕事ができる人ほど「管理」に走る
ちなみに、いわゆる仕事ができる人ほど「管理」に走り、「介護」に失敗しがちです。なぜなら、仕事ができる人は課題解決思考が染みつき、文字通り課題を一つずつクリアすることで目標を達成してきたからです。しかし、衰えてできることが減っていく親の「課題」が解決されることはありません。
そうはいっても、年老いた親のことを放ってはおけない。そんな冷たい仕打ちはできない――そう思う人もいるでしょう。そうした人には、こうアドバイスしたいと思います。親が老いていく姿を「間近で直視して面倒を見る」のではなく、親が老いていくのを「受け止める」方がいいのではないですか、と。
何度も述べているように前者こそが良い介護と思われがちですが、子どもにとっては辛過ぎる作業です。したがって、あえて親と距離を取り、誰もが年を重ねれば不自由さは増していくという事実を静かに受け入れることが大切なのです。
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