介護のプロが親の介護をしない理由とは 「親への虐待に発展してしまうケースも」

ドクター新潮 ライフ

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“温情”が従業員を追い込む

 事業主、すなわち企業側も同様です。従業員が、「老親の衰えが目立ってきたので、この際、介護休業法を利用して親の介護に努めたい」と訴えてきたとします。「それは親孝行ですね。ぜひ、休みを利用して親御さんの傍に寄り添ってあげてください」。企業の人事・総務担当者は、良かれと思ってこのように“優しく”対応する。具体的には、その従業員のことを最大限配慮し、家の近くの事業所勤務やテレワークに変えてあげたり、負担の少ない業務に配置転換してあげたりする……。

 しかし、厳しい言い方になるかもしれませんが、この“温情”は、従業員を介護に専念する環境に“追い込んでいる”ともいえます。繰り返しになりますが、その先には介護離職のリスクが待ち受けています。職を失う従業員はもちろん、人材を失うことになる企業側も、実は“優しい”対応を取ることによって不幸に陥る危険性が高まるのです。

 ここまで説明してきた事情から、多くの介護現場を目の当たりにしてきた私としては、今回の法改正が介護離職を加速させる恐れがあると危惧しているわけです。

介護のつもりが「管理」「監視」に

 それでは、介護休業法は無用なのか。もちろん、そんなことはありません。正しい使い方、つまり「介護体制を整えるため」に利用すればいいのです。正しい利用法について解説する前に、改めて「良い介護」とは何かについて考えてみたいと思います。

 私が介護福祉士の資格を取るにあたって教わったことがあります。それは、「介護のプロ」であっても自分の親の介護はしてはいけないということです。

 介護のプロが冷静に対応できるのは、第三者として客観的な立場で被介護者に接しているからです。いくら介護のプロであっても、自分の親と客観的に向き合うのは至難の業なのです。

 昔は聡明で優しかった母親が、もしくはたくましくバリバリ働いていた父親が、年を取り認知機能などが衰え、うまく物事を進められずに怒鳴ったり、日がな一日ボーッとして過ごしたりしている――こうした親の姿を目にするのは、子どもにとって、とても辛いものです。すると、「かつての親」を知り、その姿を追い求める子どもは、こんな介護をするようになります。

 脳機能を回復させようと親に算数ドリルを強要し、体力の衰えを止め、回復すべく階段を何往復もさせる。あるいは、親が徘徊をするのが心配で一日中、家に閉じ込めておく。

 これこそが良い介護だと信じて子どもは実践しているのですが、客観的、俯瞰的に眺めると、どう考えてもそうは思えませんよね? これでは「介護」ではなく「管理」あるいは「監視」です。挙句、言うことを聞かない親への子どもによる虐待に発展してしまうケースもあります。

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