介護のプロが親の介護をしない理由とは 「親への虐待に発展してしまうケースも」
結局介護離職せざるを得なくなる
もう少し詳しく説明していきましょう。
介護が必要な家族1人につき、一定の条件を満たせば93日まで給与の67%を給付金として受け取れることが法律で保障されています。そしてこの制度を活用し、子どもが自らの手で親の介護をすることこそが親孝行であると考える人が少なからず存在します。これこそが「仕事と介護の両立」なのだと。真面目で、責任感が強い人ほどそう思いがちです。
では、いざ実際に仕事を休んで介護を始めたらどうなるでしょうか。どんなに頑張ったとしても、それが可能なのは「93日間限定」です。果たして、94日目からどうするのか。仕事に戻るか、それとも辞めるかの選択を迫られます。きっと、仕事を休んでまで親孝行をしようとした責任感の強い人は、後者の道を選ぶことでしょう。なぜなら、子どもが仕事に戻ってしまえば親を“ほったらかし”にすることになると考えるからです。結局、94日目からは介護離職せざるを得なくなる。つまり、良かれと思ってとった行動が、結果的に「仕事と介護の両立」を破綻させてしまうのです。
ここで、一度立ち止まってよく考えてみてほしいと思います。そもそも、子どもが直接、親の介護をすることが本当に親孝行なのか、と。
他人に親の介護を任せるのは「悪」という思い込み
現在、経済も人口も右肩上がりはとっくに終わり、超少子高齢の時代を迎えています。親と子と孫が同居し、家は専業主婦が守る――こういった「サザエさん」のような一家がもはや絶滅危惧種であることに異論を挟む人はいないでしょう。
にもかかわらず、こと介護の話となると、日本人はなぜか「サザエさん」が描く時代を理想とし、それが「善」であり、他人に親の介護を任せるのは「悪」だとの思い込みから離れられない傾向にあります。
もちろん、どのような理想を描くかは人それぞれ自由です。しかし、その理想をかなえることはできません。1980年は高齢者1人を7.4人の現役世代で支えていたのに対し、現在は現役世代2人で1人の高齢者を支えています。まず、子ども世代が介護に専念できる余裕などありません。また、昔に比べ、医療技術が進むなどした結果、介護期間が一体いつまで続くか分からないという事情もあります。こうした現実が理想の実現を許さないのです。
従って、「介護に専念するため」、より正確に言うと「子どもが自分で親の介護をするため」に介護休業法を利用すべきではないのです。しかし残念ながら、少なくない人が「介護に専念するための介護休業法」と勘違いしてしまっているのが現状です。
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