秋の新米はさらに値段が上がる? 備蓄米放出の効果は「ほぼ影響なし」 背景に深刻な「肥料問題」が
備蓄米を放出するも価格は下がらず、今秋の新米も値上がり確実――。消費者を苦しめる「令和のコメ騒動」はいつまで続くのか。農業を取材するジャーナリストが指摘するのは価格高騰の背後に潜む「肥料問題」。その解決の糸口として意外な“資源”を挙げるのだ。【山口亮子/ジャーナリスト】
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【写真】韓国のスーパーで実際に売られている「コシヒカリ」。4キロで約2300円。「お持ち帰り」を呼びかける張り紙も
4月中旬、関東のとあるスーパー。コメ売り場で値札を見比べていた60代の女性は「以前の倍の価格。消費者をバカにしてる」と怒りをあらわにし、コメを買わずに去っていった。
備蓄米が出れば価格が下がる――。こうぬか喜びした消費者は少なくなかったはずだ。ところが、その備蓄米が3月末から店頭に並び始めたというのに、コメの相場は一向に下がらない。
備蓄米が21万トン程度出回ったところで……
農水省が公表するスーパーのコメ平均価格は、4月20日まで16週連続で上昇した。4月14日~20日の1週間の平均は、5キロ当たり4220円で、前の週より3円値上がりした。前年の同じ時期は2088円だったので、1年で価格が倍以上に跳ね上がっている。農水省は備蓄米の放出後も値上げが続く理由を合理的に説明できなくなっている。
「備蓄米の報道を見た顧客から、『いつから価格が下がるのか』と聞かれた。それでも、4月からは10キロで500円以上は上げるつもり」
ある米穀店主は3月初旬の時点でこう宣言していた。農水省が同月中旬から備蓄米21万トンを放出すると大々的に報じられていたが、コメの相場は上昇を続けた。年度初めの4月は価格改定に切りのいい時期でもある。備蓄米放出の報道の過熱による消費者の期待とは裏腹に、この米穀店主のように小売りは続々と値上げに踏み切っている。
備蓄米の放出で価格が下がるというのは、政府の方便に過ぎない。量で圧倒的に多い通常の流通ルートをたどるコメは、値上げを続けている。今後も小売りの店頭価格は、備蓄米を例外として上がり続けるだろう。備蓄米が21万トン程度出回ったところで、価格の上昇を続けるメインストリームには影響しない。
農家の平均年齢は69.2歳
実はこのことをよく理解しているのが当の江藤拓農水大臣だ。備蓄米の放出を決めて間もない3月4日、記者会見で放出についてこう話した。
「価格にコミットするものではないと申し上げてきましたが、流通が改善することによって、(価格が)安定することを求めています」
備蓄米は価格を下げるために放出するのではないと公言していたのだ。その狙いは、流通の過程で「スタック(目詰まり)」しているコメを吐き出させることにあった。昨年末時点の2024年産米の集荷量は、1年前と比べて21万トン減っている。この減少分は集荷業者や卸売業者などの中間流通でスタックしているという“消えた21万トン”説を農水省は主張する。だが、この仮説は現実と異なるというのが、おおかたの業界関係者の意見だ。
「21万トンのコメは、そもそもないんです。放出する備蓄米の量も21万トンでは足りなくて、40万トンは必要」
とある米卸会社の役員はこう指摘する。40万トン以上が不足しているとの認識は、この役員に限らない。コメの月ごとの民間在庫量は、一貫して1年前より40万トン前後が不足している。不足の原因はいくつもあるが、いずれもコメの生産を抑える“減反政策”に端を発する。
バブル全盛だった1980年代に女性が結婚相手に求める条件として、高学歴、高身長、高収入という「三高」がはやった。今は高齢者の自虐ネタとして、高血圧、高血糖、高血中脂質(高コレステロール)が「三高」と言われる。
稲作農業も「三高」に直面する。高齢化、高温、高騰――である。まず一つ目の「高齢化」から見ていくと、農家の平均年齢は上がり続け、24年に69.2歳に達した。離農のタイミングは「機械が壊れるか、自分が壊れるか」になっている。
「作付けの途中で高齢の農家が倒れて、途中から作業を引き継ぐことが、このところ増えている」(ある農家)
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