秋の新米はさらに値段が上がる? 備蓄米放出の効果は「ほぼ影響なし」 背景に深刻な「肥料問題」が
肥料高騰を受け、農家で買い控えが
実は国内の化学肥料の需要は21年の末から始まった肥料高騰を受けて、大きく減退している。同年10月、化学肥料の原料の主たる供給国である中国が内需を満たすために海外への輸出制限に踏み切った。翌22年2月にロシアがウクライナ侵攻を始め穀倉地帯が戦場と化したことから、ビジネスチャンスとみて穀物を増産する他国の農家が増え、肥料の需要が高まり、原料の国際相場が急騰した。円安も重なって国内の化学肥料価格が高騰し、農家は高い肥料を買い控えるようになる。
肥料メーカーの業界団体・日本肥料アンモニア協会の統計によると、令和5(2023)肥料年度(7月1日~6月30日)において化学肥料の需要は令和2(20)肥料年度より2割も減っていた。「化学肥料の価格は一時に比べある程度下がっているが、円安の影響もあり高止まりしているため、需要はまだ戻っていない」(肥料業界の関係者)のだ。
2割減というのは、肥料業界にとって衝撃的な数字だった。なにせ農水省は、肥料高騰が始まる前の21年5月に、50年までに化学肥料の使用量を3割減らすという目標を掲げていたからだ。約30年かけて3割減らすはずが、3年で2割も減った。目標を早々と達成しそうな勢いだ。
化学肥料の代替となる堆肥(たいひ)や鶏糞燃焼灰(鶏糞を燃やした後の灰)の活用も進むが、化学肥料の需要の減少を補えるほどではない。肥料高騰の初期に当座の必要分を買いだめ、しばらく肥料を買わなかった農家もいるものの、さすがにもう買いだめた在庫は残っていないはずである。
上がらないコメの生産性
総務省は、20年の価格を100とした場合に、現在の価格がいくらになるかを「消費者物価指数」として公表している。それによると、24年12月に食料は122.5。4年で価格が22.5%上昇した計算になる。
また、農水省は、農業版の消費者物価指数といえる「農業物価指数」を公表している。やはり20年を基準として、現在の農産物や資材の価格がいくらになるのか算出したものだ。
それによると、24年12月に農産物価格指数は135.7だった。種や苗、農薬、肥料、段ボール、農機具といった農業に必要な資材の指数は120.9で、やはり上がっている。なかでも肥料は139.0と高い。
ただし、これでも肥料の値上がりは一時よりマシだ。高騰が深刻だった22年12月の肥料の物価指数を振り返ってみると、円安の影響もあって、前年同月比で41.2%も上昇していた。
資材費の高騰は、いまや農家にとって最大の経営課題となっている。高い肥料をこれまで通り使い続けることが難しくなっている上、人件費の上昇も相まって、農業経営は儲かりにくくなってきた。
稲作農業の「三高」(高齢化、高温、高騰)は、少子高齢化や地球温暖化、中国の禁輸措置や、ウクライナ侵攻など、日本の農業に不利な事象が重なって起きた。だが、運が悪かったと片付けてはいけない。こうした変化に対応できない硬直した稲作農業を形作ったのは、先に触れた“減反政策”だからである。
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