秋の新米はさらに値段が上がる? 備蓄米放出の効果は「ほぼ影響なし」 背景に深刻な「肥料問題」が

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ヒトの方も活用が進み「効き目は配合肥料と遜色ない」

 ヒトの方も活用が進む。下水汚泥の肥料利用にいち早く取り組んだのが、神戸市だ。下水処理場で下水汚泥からリンを回収し、「こうべハーベスト」と名付けた肥料を製造する。園芸用や水稲用、さらには酒どころの灘(なだ)を擁するだけに、酒米の山田錦用まで用意している。

 同市西区にある農園、「Moto Vegetable Farm(モト・ベジタブル・ファーム)」の安福元章代表は、1.3ヘクタールの農地でコメや野菜を育てている。10年以上、こうべハーベストを使ってきた。

「再生リンを使っているので、他の肥料とは性格が違うところがあります。神戸市では、地産地消をしよう、地元の野菜を食べようという動きがあったので、市内で資源を循環させる肥料がPRになるということもあり、使い始めました」

 と安福代表。効き目はよくある配合肥料と遜色ないという。

 神戸市は水稲用として、学校給食向けによく作付けされる品種「きぬむすめ」に特化したこうべハーベストを製造する。今後は倒れにくくて食味のいい「キヌヒカリ」用と、牛糞堆肥に再生リンを加えたペレット状の肥料の開発も見込む。

 下水汚泥は年に約235万トン、東京ドーム約2杯分が発生し、その中にはリン酸が12万トン近く含まれるとされる。家畜糞尿は年間約8000万トン、東京ドーム約65杯分が発生し、リン酸の推定含有量は20万トン強~40万トン強。年間に施されるリン酸肥料は35万トン前後なので、下水汚泥と家畜糞尿に含まれるリン酸を足すと、その必要量を上回る。

 つまり、“ウンコ”はわが国の食料安全保障を確立する上で、極めて重要な「資源」なのである。

山口亮子(やまぐちりょうこ)
ジャーナリスト。愛媛県生まれ。京都大学文学部卒。中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリーに。著書に『日本一の農業県はどこか 農業の通信簿』(新潮新書)、共著に『誰が農業を殺すのか』などがある。雑誌や広告の企画編集やコンサルティングなどを手がける株式会社ウロ代表取締役。最新刊は『ウンコノミクス』(集英社インターナショナル)。

週刊新潮 2025年5月15日号掲載

特別読物「備蓄米21万トン放出のまやかし コメ高騰のウラに潜む『深刻な肥料問題』」より

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