秋の新米はさらに値段が上がる? 備蓄米放出の効果は「ほぼ影響なし」 背景に深刻な「肥料問題」が

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零細農家が小規模のまま残ってしまった結果……

 1970年に国が始めたこの政策は、正式には生産調整という。調整といっても、現実にはコメの需要の減退を受けて生産を減らすマイナスの方向にのみ、働いてきた。作付けの面積(反)を減らしたので、減反と呼び慣らわされている。

 農水省は全国でコメを作付けする面積を取り決め、市町村を通じて農家に割り振った。04年以降は、制限する対象が面積から生産数量に変わっている。水田にムギやダイズ、飼料用米(エサ米)などを作付けする転作に対し、補助金や助成金を付け、コメの生産を抑制するよう圧力をかけてきた。18年に減反を廃止したと国は主張するものの、生産調整のしくみは今に至るまで機能し続けている。

 米価を上げて農家の手取りを増やす手段として使われた減反は、長期的には多くの損失をもたらした。その最たるものが、農家の大規模化や、農地の集約化が進まなかったことだ。米価を高く保つことで、本業が別にあって週末や朝晩だけ農業に従事する兼業農家や、年金を主な収入源とする「年金農家」が小規模のまま残ることになった。

 これらの零細農家の大半は、生産効率が悪く、経営体力に乏しい上、新しい技術の導入にも消極的だ。専業農家の農地拡大が遅れた結果として、日本のコメの生産性は、他国ほど上がっていない。今般、「三高」というマイナス要因がすべて重なったことで、必要な量のコメを供給できなくなるのは、当然の帰結だった。

 需要と供給をギリギリで均衡させ、米価を高く保つ。農水省はここ2年、そんな際どい勝負を仕掛けたつもりが供給不足を招いてしまった。今秋の新米はさらに価格が上がる勢いだ。減反政策で需給をコントロールできるという幻想を、果たして政府は捨て去れるのか。

ウンコが期待の星

 一方、化学肥料の値上がりを受けて、注目を集める資源がある。

「今後の肥料利用として伸び幅のまだ大きい資源は、下水汚泥と家畜糞。この二つの活用を狙っています」

 農水省技術普及課生産資材対策室の島宏彰課長補佐はこう話す。下水汚泥は、トイレからの汚水をはじめとする生活の雑排水を処理する過程で生じる泥状の物質である。平たく言うと、肥料の国産原料として、ヒトと家畜のウンコが期待の星ということだ。

 詳しくは拙著『ウンコノミクス』をご覧いただきたいが、ウンコはリン酸という作物の生育に欠かせない養分を豊富に含む。家畜の糞尿を発酵させて堆肥にし、田畑に肥料として施す。この「耕畜連携」は、国内で昔から見られた。けれども化学肥料の簡便さにかなわず、農家の兼業化と高齢化が進んで堆肥の散布の手間が厭われるようになって、水田への堆肥の投入量は年々減っている(掲載の図)。

 この耕畜連携を実践する大規模農家もいる。滋賀県近江八幡市の株式会社イカリファームは、約300ヘクタールの農地を経営する。近江牛を飼う畜産農家から牛糞堆肥をもらって田んぼに施し、収穫後の稲わらを代わりに近江牛のエサにしてもらって、循環を成り立たせてきた。

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