“非加熱製法”で“保存料ナシ”なのに「賞味期限2年」 老舗「トキハソース」100年の試行錯誤から生まれた“生ソース”の魅力
保存料は使わず
ふたたび、田口伊津子社長の話。
「大手さんは、コストカットのために冷凍野菜や野菜パウダーなどを使っていますが、弊社は生野菜です。しかも、一般的なソースづくりは、野菜や果物を煮て、いちばん味のいい上澄みの部分を使います。煮くずのようになった野菜類は捨ててしまうんです。それがかなりの廃棄量になるので、なんだかもったいなく感じていました。そこで、残渣(煮くずのようになった野菜)を出さずにソースができないものかと、先代社長が、かねてより試行錯誤してきました」
その結果、通常だったら野菜を加熱殺菌するところを、あえて火を入れて「煮る」ことはせず、酵素を使って生野菜を酵素分解し、すべてを溶かす製法が生み出された。「東京都ソース工業協同組合」と「東京都立食品技術センター」の協力を得て、2代目の時期に開発されたという。
「これが酵素による、非加熱製法です。もともと熱に弱い酵素なので、火入れはできません。ただ、これなら、すべてが溶けてしまうので、廃棄は生じないんです。野菜や果物のうまみや香りを、そのまま残すことができますし、近年のSDGsにも合致します。ただし、2週間ほど攪拌をつづけて酵素分解しなければならないので、とても手間と時間がかかります。製法そのものは秘密でもなんでもないので、誰でもできるのですが、さすがにこの製法でソースをつくっている会社は、弊社のほかには2社くらいしかないと思います」
そして、2週間かけて、完全にどろどろになったところへ、酸度の高いお酢や、塩、砂糖、香辛料などを入れるのだという。
「保存料は、一切つかっていません。酵素や、酢・塩・砂糖のバランスをきちんと保てば、火入れをせずとも、漬物とおなじように、日持ちするソースになるのです。弊社のソースは、賞味期限2年です。」
現在、〈トキハソース〉の主力商品「生ソース」には、〈ウスター〉〈中濃〉〈濃厚〉の3種類がある。どんなちがいがあるのだろうか。
「基本的に、材料はどれも同じです、ただし、素材の配合率がちがうんです。それによって、とろみと味のちがいを出しています。通常のソースは、澱粉でとろみをつけています。しかし弊社のソースは非加熱ですから、それはできない。〈濃厚〉は、リンゴとトマトが多いので、甘みの強いこってりした味。〈ウスター〉は少なめで、さっぱりしています」
そういえば、〈ソース〉といえば、黒や濃い茶色のイメージが強い。だがトキハソースは、どれも赤味が強く、黒とはほど遠い色合いだが……。
「野菜と果物が多いからです。これが、ソース本来の色なんです。黒いソースは、添加物のカラメルで色を付けているんです。というのも、むかしの日本では、〈ソース〉が定着するまでは、かける調味料といえば〈醤油〉がほとんどでした。よって、なるべく〈醤油〉の色合いに似せるようにしていたといわれています。それに、やはり色が濃いほうが美味しそうに感じるものですし。ですから弊社も、生ソース以外の業務用には、黒いソースをつくっています」
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