“非加熱製法”で“保存料ナシ”なのに「賞味期限2年」 老舗「トキハソース」100年の試行錯誤から生まれた“生ソース”の魅力
あの商品にトキハソース?
こうして、100年の間に、試行錯誤を繰り返し、生ソースの開発まで行きついたトキハソースだが、やはり困難に襲われたのは、太平洋戦争の時期だった。
「東京大空襲で被災したうえ、1944(昭和19)年になると、砂糖の配給はゼロになり、事実上、ソースはつくれなくなってしまいました。そのころから戦後しばらくまでは、デミグラスソースにメリケン粉などを入れて、のちのとんかつソースとなっていく試作をおこなっていました。砂糖がないので、果物で甘みをつけたりするなど、苦労を重ねたと聞いています」
戦後、ようやく社会が落ち着いて、砂糖が入手できるようになると、本格的にソースづくりを再開。人工甘味料が当たり前の時代が来たが、トキハソースは、自然の砂糖を使用する、高品質ソースにこだわりつづけた。
「その後、1971(昭和46)年に、板橋区仲宿の本社の地に高速道路ができることになり、立ち退きとなったので、現在の北区滝野川に引っ越してきました。そのころ、この一帯は準工業地域だったのですが、次第に周囲にマンションが建ち始め、完全な住宅街となりました。そうなると、トラックの出入りなどで近隣に迷惑をかけることになりますし、また、生産量も増えてきたので、現在、工場機能は埼玉県志木市に移しています」
ところで、〈トキハソース〉は、なぜ、町中の小売店で、売っていないのだろうか?
「実は以前は、スーパーなどにも卸していたのですが、どうしてもお店によって値段が変わってしまいます。弊社のソースは、ただでさえ高価格で他社の倍以上しますので、地域やお店によって値段がちがうのでは、お客様も不公平感をおぼえてしまいます。また、製法が独特なうえ、社員20数人の小さな会社ですから、大量生産ができません。そこで、現在は、小売店には、卸していないんです」
では、いったい、どうすれば、入手できるのか?
「弊社のオンライン通販か、滝野川本社店舗、さらに自販機での販売――公式には、この3ルートのみにさせていただいております。amazonなどでも売られていますが、あれらは、食品販売会社さんの出品で、弊社の直販より高くなっているようです」
実は、今回の取材で、滝野川本社を訪れた際、自家用車で乗りつけ、その自販機で何本もの〈生ソース〉を購入している男性がいた。さっそく聞いてみたら「飲食店をやってるんだけど、うちでは、ここのソースしか使わない。だから時々、まとめ買いをしにくるんだ」とのことだった。「すこし高いけど、十分、その価値はある。こんなうまいソース、ないよ」とも。
だが……そんな細々とした販売では、会社として、立ち行かないのでは?
「実は、これら直販の〈生ソース〉は、弊社の売り上げの、ほんの一部なんです。主力は、業務用ソースで、むかしながらの黒いとんかつソースもつくっております。また、カップ焼きそばや、焼きそば麺に付属している小さなパックのソース、あれらのなかの原料にも、弊社が製造しておさめているものがあります」
ええ? ということは、どこのコンビニでも売っている、あのカップ焼きそばのソースも、トキハソース製?
「それは残念ながら、お教えできません。ご想像におまかせいたします(笑)」
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