“非加熱製法”で“保存料ナシ”なのに「賞味期限2年」 老舗「トキハソース」100年の試行錯誤から生まれた“生ソース”の魅力

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焼きそばにもピッタリ

 さてさて、では、実際にトキハソースを味わうには、どこへ行けばよいのだろうか?

 同社の滝野川本社にほど近い池袋の西口に、昨年12月にオープンしたばかりの「とんかつ あげいけ」がある。このお店のソースが〈トキハソース〉である。机上の説明書きには、店主の〈トキハソース〉への熱い思いが記されている。

「池袋でとんかつ屋をやる以上、なるべく地元の食材を使いたかったんス。池袋でソースといったら、〈トキハソース〉で決まりですから」

 と語るのは、店主の若林弘章さん。長年、池袋で飲食業を営んでいるベテランだ。

 実は、かつて池袋西口でとんかつ屋といえば、1956(昭和31)年創業の老舗「寿々屋」が、すぐそばにあったのだが、2015(平成27)年4月に、惜しまれつつ閉店してしまった。以後、このあたりは“とんかつ屋空白地帯”となり、とんかつ好きは、さ迷える日々をおくっていた。そこへ、ひさびさに本格的な店が登場とあって、さっそく賑わっている。やわらかくて旨味たっぷりの肉はもちろん、コメも揚げ油もパン粉も、徹底的にこだわった素材を選んでいるそうだが、ソースにもこだわったという。

「〈トキハソース〉は、素材が加熱処理されていないので、自然の味わいそのままです。よって、とんかつとの相性が抜群なんです。当店では、〈生 濃厚〉を置いておりますので、たっぷりかけて、召し上がってみてください。ソースの甘みのなかに、かすかにピリッとくる香辛料の刺激があり、豚肉の甘みを、さらに引き出してくれます」(若林さん)

 場所柄、外国人のお客も多いが、誰もが〈トキハソース〉の味には、感動している様子だという。

 大衆的なとんかつ屋のみならず、高級ホテル「ハイアット セントリック 銀座 東京」のレストランで使用されているのも、この〈トキハソース〉だそうだ。

 さらに、〈トキハソース〉を使った料理を味わえるのが……

「毎週水曜日、弊社のソースをつかった〈滝野川焼きそば〉を、本社内で販売しております。ただし、キッチンカーで調理するので、数に限りがあります。そこで、LINEや本社での事前予約制にさせていただいております」(田口社長)

 これは少々変わった焼きそばで、〈トキハソース〉で味付けされたきんぴらごぼうや、ローストビーフがトッピングされている。実は江戸時代、滝野川周辺は黒土の土壌ゆえ、ごぼうやニンジンの栽培に適しており、名物だったらしいのだ。

 昭和100年を生き抜いてきた〈トキハソース〉。とんかつや焼きそばを引き立て、これからも“東京の味”を守っていってほしいものである。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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