「楽しくて気付いたら子どもが7人に」 熊本市・「やまなみこども園」が起こした四つの奇跡 一方、「補助金獲得のための保育園」が乱立する問題も

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補助金獲得のための保育

 ただし行政は、こうした認可外の園を必ずしも正当に評価してこなかった。認可するかどうかは、保育内容の質より、政治的なロビー活動や見栄えの良いアピールの方が重要になる。熊本市内には不適切保育でニュースになった認定の園が複数あるのに、やまなみこども園は約50年間まったく取り合ってももらえない。

 ただ今は、認可外の園が自主努力だけで続けていくのは難しい時代になっている。やまなみこども園の年間の運営費は保護者から徴収する保育料7000万円ほどだが、同規模の認可の園であれば少なく見積もっても2億円強の補助金が行政から流れ込む。近年の物価や人件費の高騰に加え、保育の無償化によって「保育にお金をかける」という空気が社会から消えつつあるため、この差額を保護者の善意だけでは賄いきれなくなっているのだ。

 全国保育問題研究協議会事務局長の高見亮平氏(42)は話す。

「認定された園って、ある意味、国に守られて補助金が入ってくる、“お金が保証された事業”なんです。しかし、現在の保育業界では、保育の質を高めることより、補助金をどうやってもらうかばかりに目が向きつつあるように感じます。国は少子化対策で多額の予算を保育につぎ込んでいますが、質の高い保育を行っている園に回っているわけではなく、国が課した“ノルマ”をクリアしている園にばかり注がれているのです」

園の乱立から20年以上がたち……

 その始まりは、小泉政権時代の「待機児童ゼロ作戦」だったという。当時わずか3年で受け入れ児童を15万人へ増やすことを目標に、保育士の配置条件の緩和、非常勤保育士数の上限撤廃、園の開設条件の軽減などの策を繰り出した。

 これが園の乱立を引き起こした。それから20年以上がたった今、少子化の中で生き残りを懸けた熾烈(しれつ)な競争が起きている。

 現在、国は「親の多様な需要」を満たすためにさまざまなノルマを課し、それをクリアした園に多額の補助金を注いでいる。東京都なら、園が小中高生の保育体験を10日以上受け入れれば60万円、出産を迎える親の体験学習を6回以上実施すれば60万円、実習生を6人以上受け入れれば80万円といった具合だ。

 一概にすべて悪いと否定するつもりはない。だが、園が目先の利益のためにこれらのノルマを遂行することに躍起になれば、現場で必死に子どもと向き合っている保育士に余計な負担がかかり、保育の質の低下が生じる。

 昨年度からも、こども未来戦略の一環として「こども誰でも通園制度」がスタートした。6カ月から満3歳未満の子を、1人当たり月10時間まで地域の園に預けられる制度である。

 これによって親の子育ての手間は軽減するかもしれないが、家庭以外の所に預けられることに慣れていない乳幼児が次から次に園に連れて来られれば、ただでさえ多忙な保育士は在園児に向き合うことが難しくなるだろう。

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