「楽しくて気付いたら子どもが7人に」 熊本市・「やまなみこども園」が起こした四つの奇跡 一方、「補助金獲得のための保育園」が乱立する問題も

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保護者がDVを受けていれば仲裁に

 やまなみこども園は、子どもの保育だけにとどまらず、生活の基盤である家庭にも踏み込んだ支援を惜しみなく行った。親が事故に遭って入院すれば園がその期間子どもを預かる。保護者がDVを受けていれば仲裁に入る。卒園生が不登校になれば日中の面倒を園で見る……。むろん、それにかかる費用はすべて山並氏の持ち出しだ。

 徹底的に家庭に寄り添った保育のおかげで、やまなみこども園は親にとってなくてはならない存在になった。

 それゆえ、認可外で補助金がなく保育士にボーナスも出せていないことを知れば、保護者たちが一丸となってバザーを開催して売り上げをボーナスに回し、運動会や遠足をやるとなれば、親が自ら会場設営や送迎の役割を買って出る。「子どものため」という目的に向かって、みんなで資金や人手を補ったのだ。

 また、園を中心に各家庭が密接なつながりを持つことで、大家族のような相互扶助コミュニティーが出来上がった。毎週末のように複数の家族がBBQや宿泊旅行の計画を立てて他の子たちを連れて行く、親の出張中に別の家庭が子どもを預かる、弁護士や医師の資格を持つ保護者が他の保護者の相談に乗るといったことが自然と行われた。

「押し付けられたことは一度もない」

 4人の子どもを園に通わせていた元保護者会長の藤田典樹氏(65)は話す。

「誰でも育児には大きな不安が伴うし、親だけではできないこともたくさんあります。ここの園では、子どもたちが毎日目に見えて分かるくらいに成長していくし、先生や他の保護者が同じ家族のように深く関わり、あらゆることにおいて支えてくれる。みんな、この園があるからこそ子育てができる、という気持ちがあったはずです」

 その中で独自の文化が育った。

「園から『これをしてくれ』と押し付けられたことは一度もありません。親同士が自発的に『これなら自分でもできる』と無理のない範囲で手を挙げてやる。すると、予想外の楽しさに出会うのでまた手を挙げる。それがやまなみこども園の文化なのです」

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