「楽しくて気付いたら子どもが7人に」 熊本市・「やまなみこども園」が起こした四つの奇跡 一方、「補助金獲得のための保育園」が乱立する問題も

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認可外の園は、さまざまな親子の受け皿

 一方、長年にわたって良質な保育を提供してきた伝統ある施設が次々と閉鎖に追いやられているという。地域のけん引役であった園が倒産することも珍しくなく、日本の子育ての根幹が揺るがされているとの声も上がるほどだ。

 保育業界の生き残り競争で最も不利な立場に追い込まれているのが、認可外の園である。

 認可外と聞けば、国が定める設備や人員の基準を満たしていない小規模な託児施設をイメージするかもしれないが、実際は認定の園より立派な設備を持ち、長い歴史に裏打ちされた良質な保育を提供するところも少なくない。

 今年3月、そんな保育園の一つが24年の歴史に幕を下ろした。熊本市北区のさくら保育園である。園長の真島一人氏(57)は言う。

「日本では30年くらい前に共働き家庭の数が専業主婦家庭を上回って以来、保育需要が高まりました。しかし行政は財政上の問題から一部にしか認可の園を作らなかった。そこで認可外の園が次々と誕生し、困っている親子の受け皿となったのです」

 これまで国や行政は一定の条件を満たした園に認可を与え、多額の補助金を出してきた。だが、認定の園だけで全需要をカバーできるわけではなく、はじき出される家族が少なからず存在した。

 認定の園の抽選に外れた家庭だけでなく、DV夫から逃げてきた専業主婦の子、医療的ケア児を育てている親、里帰り出産後に事情があって家へ帰れない親の子などは、対象外とされることがある。認可外の園は、子どもたちが漏れた時に、その受け皿となってきた歴史があるのだ。

一緒に食材を採って料理

 以前、本誌(「週刊新潮」)で取り上げた、同じ熊本市にある「親が多産になる“奇跡”のこども園」とたたえられる、やまなみこども園もその一つだ。

 49年前、創設者の山並道枝(78)が同園を開設したのは、当時は一般的だった封建的な保育を打破するためだった。熊本県、愛知県の保育園で勤務経験があった山並氏は、子どもたちを機械的に管理するだけで、心身の成長を二の次にするずさんな保育を目の当たりにしてきた。一日中子どもを部屋に閉じ込めて座学を押し付けたり、園児を番号で呼んで個性をないがしろにしたりする園があふれていたのだ。

 山並氏は子どもの健全な発育を実現するため、私財を投じて義理の両親が所有していたアパートを改築し認可外の園を開園した。全国の園を視察して、最先端だったリズム運動を熊本でいち早く取り入れて普及させたり、芸術や自然と触れ合う体験を積極的に組み込んだりしていった。

 前出の真島氏は、製造業から保育業界に移ってきた。当初、彼は評判の高かったやまなみこども園へ出向き、保育のいろはを学び、その後は同じ認可外の園として共に歩んできた。彼は言う。

「行政は園に対して保育に必要な基準を掲げ、それをクリアした認可の園にのみ多額の補助金を出していますが、そのことと良質な保育はイコールではないのです。

 例えば、給食で行政の基準を満たそうとすれば、数字の上だけで栄養価の基準をクリアすればいいわけです。でも、やまなみこども園さんでは、基準を満たした上で、調理師の方が園児の散歩に付き添ったり、田畑へ連れて行ったりする。そして自然と触れ合う中で植物や生態系について教え、一緒に食材を採って料理して食べる。そのため、子どもは自然や環境に関心を持ち、食べ物の好き嫌いもなくなる。単に基準をクリアするだけの保育か、子どもの心身の成長を促すための保育かの違いが、ここにあるのです」

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