「僕のほうが稼いでいるし子育てに専念したら」発言への10年余の恨みが爆発 63歳夫の“プレハブ小屋行き”が決まった夜
【前後編の後編/前編を読む】妻は自宅で僕はプレハブ小屋生活…63歳夫「こじれた家族」の原点 姑の仏前に母が供えた悪意あるモノ
岸本博正さん(63歳・仮名=以下同)は、都内のマンションでひとり暮らしをしている。家族が暮らす郊外の自宅はあるが、居場所は敷地内のプレハブ小屋だけだという。不仲な両親に育てられ、大学生のときに離婚。幼少時には母の不倫現場と思しき場面にも遭遇した。恋愛面では、大学生のときにアルバイト先の人妻と関係を持ち、その夫が乗り込んできて修羅場になったこともある。
***
【前編を読む】妻は自宅で僕はプレハブ小屋生活…63歳夫「こじれた家族」の原点 姑の仏前に母が供えた悪意あるモノ
就職時はバブル前夜で、彼は希望通りの企業に入社した。その後、バブルがはじけるまではかなりの給料とボーナスを手にして、「人生で初めて浮かれた」そうだ。
「ただ、しょせんは会社員ですし、堅実な先輩たちは『そのうちヤバいことになるぞ』と話していました。あっけなくバブルがはじけて、その後、僕の勤務先もひどいことになった」
合併にともなうリストラ、さらなる合併、吸収などが繰り返された。そのたびに辞めていく同僚や先輩も数多くいた。辞めるも地獄、残るも地獄だと誰もがつぶやいた。
「僕は勇気がなくてやめ時を見失ったんです。残って会社が変わっていくのを見つめていた。独身だったし、自分ひとりが食べていければいい。地道に働こうと思っていました」
だが組織はときどき思い切ったことをする。いろいろな歯車がうまくかみ合って、彼が属する営業部が大きな業績を上げたことがあった。たまたまそのチームを任されていたのが当時、39歳だった博正さん。その直後に新たな合併があり、相手先と混合でできた営業部の部長に押し上げられてしまったのだ。役付も若いほうがいいという新たな社風に則っていた。
「わけがわからなかったけど、こうなったらやるしかない。リストラされた元社員に脅されたりしたこともありましたが、僕は僕の役目を粛々とこなしました。そんな僕を見ていてくれたのが、後輩の梨紗子だった。ひとりで残業していると、『夕飯まだでしょう』とお弁当を差し入れしてくれたりもした。手伝えることがあればと、一緒に残業してくれることも多々ありました。そういう女性を好きになるのは当然ですよね」
生まれて初めてのときめき
彼女は仕事もできたし、アイデアももっていた。仕事を効率化するためにどうしたらいいか、部署の~~さんはこういうことが得意だからやらせてみたらどうだろうとか。部内の情報を逐一上げてくれるので、彼は適材適所を考えることができた。
だが好きにはなっても恋愛に発展することには躊躇した。職場で恋愛すると仕事がやりにくくなると思い込んでいたのだ。だが恋に発展するかどうかはわからない。そもそも梨紗子さんが自分を好きになってくれる確証もない。
3年たって少しずつ成果が上がってきたころ、博正さんは梨紗子さんを食事に誘った。残業の合間のササッと飯ではなく、他の部下が一緒でもなく、たったふたりで食事に行くのは初めてだった。
「少しお酒も入ってリラックスしてきたころ、なんとなくお互いの過去を話したんですよ。彼女は僕より3歳年下なんだけど、20代で一度結婚経験があるそう。でも3年もたたずに義母との折り合いが悪いことが夫婦関係にも影響して離婚になった、と。『最後に、おかあさんと私、どっちが大事なのよと聞いたら、夫が嫁の代わりはいるけど母親の代わりはいないって言ったんです。それを聞いて、なあるほど、それもそうよねと離婚を決めました』と笑いながら言うんです。それで、『こんな質問、失礼だと思うけどつきあっている人はいないの?』と聞いてみたんです。すると彼女、少し目を潤ませながら『片思いの人ならいます』と。なんだ、いるのかと思ったけど、彼女なら片思いじゃなくて、つきあうことができるはず。心から励ますつもりで、告白してみればいいと言ったら、『今、告白していいですか』って。え? オレ? 心臓バクバクでした。生まれて初めてときめきました」
[1/4ページ]