【袴田事件】裁判長は「異臭がするので臭いに弱い方はご退席ください」 記者が再審法廷で目撃した異様な光景とは

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協力者の存在

 筆者は「血染めの服を味噌タンクに入れたら会社のイメージが落ちるからそんなことするはずがない、という検察主張は、一定の説得力があるように感じる。従業員に協力者がいないと仮定し、警察だけで衣類を放り込めたということを主張できなければならないのでは?」と尋ねた。

 小川弁護士は「具体的な証拠はないが、誰か(従業員)の協力がないとできないと考えている。発見された時、タンクの味噌の深さは30センチもなかった。すぐに見つかるはずが、(取り出すまでに)30分もかかっている。捜査の最初から警察は袴田さんを犯人と決めてかかり、従業員が袴田さんを病院に送ると、そこで警察が待ち受けていたこともあった。従業員で逮捕された人もいる。従業員が警察の言うことを聞かざるを得ない関係にしていたと思う」と答えた。共犯とまで言わずとも、どこまで警察に協力する者がいたのか興味深い。

 さらに、田中薫弁護士に「第1次再審請求審で5点の衣類について、生地1平方センチあたりの糸の数まで検討されていた。久しぶりに(5点の衣類を)見てどう感じましたか?」と尋ねた。田中弁護士は巖さんが釈放された「村山決定」(2014年3月)の後、廃業していたが、昨年、弁護士会に再登録して奮戦している。

「高裁で証拠を閲覧して、マチ針を指して糸が1平方センチに何本あるかなど数えて、ズボンのウエストサイズなどを算出していました。西武デパート静岡店の紳士服店で(比較するための生地を)裁断してもらったりしたんです。はるか昔の話だったなあと思いました」と田中弁護士は感慨深げだった。

 小川弁護士と田中弁護士の2人は、40年以上前の第1次再審請求審から弁護団内で強く「警察の捏造」を主張していたが、当時の弁護団全員から「捏造などと言うものではない」と押し切られていた。ここへきて積年の思いを堂々と世に訴えている。

 この日の朝、ひで子さんは「静岡に行ってくるからね」と巖さんに声をかけたが、巖さんは起きてこなかったそうだ。最近の巖さんは、早起きしたり、遅くまで寝たりと、日によってばらばらだという。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

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