「妻の命の値段は370万円…」  殺人事件「被害者遺族」が困窮する国・ニッポン、海外との違いは?

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 家族を奪われた殺人事件の被害者遺族にとって、そのお金は何を意味するのだろうか……。遺族には国から給付金が支払われることになっているが、金額は個々のケースで異なり、被害者の「命の値段」と指摘されることもある。遺族の声からその問題点に迫る。【水谷竹秀/ノンフィクション・ライター】

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「こんにちは。よろしくお願いします」

 11月13日、名古屋市内の商業施設で、スーツ姿の高羽悟さん(67)が、買い物客にチラシを手渡していた。

〈名古屋市西区稲生町5丁目主婦殺人事件 捜査特別報奨金300万円〉

 赤く印字された文言が人目を引く。あの日から今年で24年、妻を殺害された高羽さんは犯人を捜し続けている。

「来年こそはこうして(チラシ配りのために)集まらなくていいように警察にお願いしたい」

「主婦なので給付金額は370万円」

 高羽さんにとっての事件後の記憶――。その一つは今も、日本の犯罪被害者支援の課題としてくすぶっている。

 それは取り調べが落ち着き、事件発生からしばらくたった時のことだった。捜査本部がある愛知県警西署の一室で、高羽さんは担当刑事からこう告げられた。

「亡くなった奥さんは(専業)主婦なので、法律に照らし合わせると給付金額は370万円になります」

 その数字は、犯罪被害給付制度に基づき、遺族に支払われる給付金の額だった。殺人事件の被害者遺族になるとは想像すらしていなかった高羽さんは、制度自体を知らなかったため、その額が妥当かどうか分からない。だが、「主婦なので」という刑事の言葉には、やがて違和感を覚える。

「奈美子の命は370万円ぐらいなのか……」

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