結婚式の引き出物が「売行き10万部」に! 著者に聞く“万葉集の超訳本”の裏側

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プロポーズにも「万葉集」

 それにしても、この現代語訳のセンスは一朝一夕で身につくものではないだろう。少年時代の思い出を聞くと、その片鱗をうかがわせるエピソードがあることがわかった。

 佐々木さんは中学・高校時代、勉強が嫌いで、歴史の教科書に悪戯描きばかりしていたという。ただ、絵を描くのが好きだったので、教科書に登場する人物を砂消しゴムで消して全然違う人を描いて遊んでいた。例えば、大隈重信の髪型を漫画『ドラゴンボール』の主人公・孫悟空にし、大隈とは政敵関係にあった伊藤博文に悟空のライバルであるベジータの服を着せる。あるいは、北条政子は強い女だったから顔をサザエさんにして、源頼朝の顔のところにマスオさんを描いたり。

「クラスメートにはすごくウケて、僕の教科書を見に来ていましたね。結婚後は京都に住んでいますが、香川に帰ると『おまえ、前から(万葉集の現代語訳と)同じようなことをやっていたよな』って言われるんです。確かに、昔のものを現代風に描いて面白がるというのは昔からやっていて、万葉集の本にもつながっているんだなと気づかされました」

 ヒットまでのいきさつをこうして辿ってみると、妻みつきさんとの結婚がプラスに働いているように見える。本人に確かめると、即座に「おっしゃるとおりです!」と頷く。

 推敲に協力してもらうだけでなく、現代語訳にもいいアイデアを授けてくれたという。

《今夜は 七夕♡ 大好きな彦ポンが 会いにきてくれる日! 肌見せコーデで 待っとくか 彦星しか勝たん!》(天の川 相向き立ちて 我が恋ひし 君来ますなり 紐解き設けな)の《肌見せコーデ》は、アパレル会社に勤めるみつきさんの提案だ。佐々木さんが当初考えていた《セクシーな服で》より洗練された表現になっている。

 実は、みつきさんへのプロポーズも万葉集の力を借りたという。

 昨年2月に京都で出会い、2時間後にプロポーズしたというのも驚くが、プロポーズとして贈った歌も衝撃的だ。

《僕と付き合うなら結婚してね。結婚しなきゃ呪うからね。そこにいるゾンビ全員元カノやからね》

 プロポーズにして、ちょっとした脅迫のような歌! 本歌は

《玉葛(たまかづら) 実ならぬ木には ちはやぶる 神ぞつくといふ ならぬ木ごとに》

 大伴旅人(おおとものたびと)の父・安麻呂(やすまろ)が、のちに妻となる巨勢郎女(こせのいらつめ)に求婚する歌。玉葛のように実がならない木には神が取り憑く。そんなつれない態度をとっていると、(荒々しい)神が取り憑きますよ、と迫ったのだ。

 みつきさんの反応はというと、笑いながら、

「ゾンビになりたくない!」

 シャレのわかる人である。

 さて、『愛するよりも 愛されたい』の増刷も間近。10万部突破は時間の問題だ。さらに7月21には、万葉集超訳シリーズ第2弾が発行予定で、一部書店では6月下旬に先行販売され始めた。タイトルは『太子の少年 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集②』。万葉集に収録された聖徳太子の和歌1首と、聖徳太子が子どもの頃に過ごした飛鳥京・藤原京の時代の歌などを超訳しているという。

「来年、1万円札の顔が渋沢栄一に変わるタイミングで、戦前を含め最多の7回もお札に登場している聖徳太子にも注目が集まるだろうと思っています」

 そう見通しを語る佐々木さん、万葉集の編纂に携わったかの大歌人にも負けぬ、“令和の大伴家持(おおとものやかもち)”の風格が出てきた。

西所正道(にしどころまさみち)
ノンフィクション・ライター。1961年、奈良県生まれ。京都外国語大学卒業。著書に『東京五輪の残像――1964年、日の丸を背負って消えた天才たち』(中公文庫)、『絵描き 中島潔 地獄絵1000日』(エイチアンドアイ)、『「上海東亜同文書院」風雲録――日中共存を追い続けた5000人のエリートたち』(角川書店)など。

デイリー新潮編集部

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