結婚式の引き出物が「売行き10万部」に! 著者に聞く“万葉集の超訳本”の裏側

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入院しました

 初版は500部。試しにAmazonに10冊入れてみた。すると購入者が「面白い!」というレビューを書いてくれたからか、間もなく売り切れた。すぐに20冊追加し、また売り切れて50冊入れる……ということを繰り返しているうちに、昨年末、産経新聞大阪版の夕刊1面で紹介された。以降、メディアへの露出が急増し、増刷を重ねた。

 しかし、喜んでばかりもいられなかった。

「死ぬかと思いました。いただいた注文を電話やメール、ファックスで受けて梱包・発送するんですが、それを自分一人でやっていたんです。全国の書店さんから個人のお客さんにいたるまで、朝7時に始まって夜遅くまで、5分おきぐらいに電話をいただくんです。大手の出版取次会社も3社来てくれたんですけれど、本を見て『うちでは扱えません』って。すごく売れている時期だったんですけどね。でもそう言われて、仕方ないので引き続き自分一人でやっていたら、2月下旬に過労でぶっ倒れまして。しばらく入院しました」

細部に「こだわり」

「何でこんなに売れたのかわからない」と謙遜するが、いやいやどうして、細かなニュアンスを正確に表現するための労力や読みやすくするための細部へのこだわりには目を瞠る。

 まず奈良弁を調べるために、コロナの移動制限をかいくぐって、当時住んでいた香川から奈良に10回は通った。

「でも、コロナの影響でカフェに若い子がいなくて困りましたね。お店で買い物をして店員さんに道を聞いてみたり、宿泊施設のスタッフに話しかけたりもしました。奈良の言葉は大阪弁よりまろやかなんです。“来ない”を“こーへん”と言うとか」

 今の女子が使う言葉も“姫ギャル系”雑誌『小悪魔ageha』や少女漫画雑誌『りぼん』などを読んで研究した。

 次に工夫したのはページ構成だ。一見開き(2ページ)で歌を一首紹介しているが、一般的な本では最初に原文を書き、次に現代語訳を紹介する。しかし、佐々木さんはこれを逆にし、「現代語訳→原文→2~3行の解説」という順番に。

「従来の並べ方だと、読みにくい原文は飛ばして、現代語訳しか読まない人が少なくないと思うんです。だから僕の本では、簡単な言葉で意味だけ抜き取るような現代語訳をつけて、元の歌はどんなんだろうと興味を持たせるようにしたかったんです」

 現代語訳をつくるとき、自分に課したのが“5秒ルール”だ。和歌の現代語訳を推敲していて気づいたのは、長い訳は読みにくいということ。その境目が5秒だった。

 妻のみつきさんが現代語訳を読み、佐々木さんがストップウォッチで測る。5秒をオーバーしたら文を削った。冒頭に紹介した《くんのかい? こんのかい!》は、《来んのかい? 来んのかい!》と漢字を当てると読みづらいことがわかって、平仮名に。《あの絶世の美女… どんなイケメンでもいけそうやろ?》という現代文は《あの絶世の美女》と、あえて“あの”という2文字をつけることでリズムがよくなることもわかった。この作業は去年の始めぐらいから半年ぐらいかけて行ったという。

 もう一つ大事にしたのは、下品にならないこと。例えば、ダイレクトなナンパ歌。

《へい! そこのハニー 俺のバナナと君のミルクで バナナシェイクをつくらないかい?》

 ちなみに本歌は

《この川に 朝菜洗ふ子 汝れも我れも よちをぞ持てる いで子給りに》

《よち》は性器の隠語。つまりは子どもをつくろうという歌である。

「ただ、この歌は“エッチしようぜ”というハッキリとしたニュアンスまでは表現していないので、どの程度まで書くか悩みました。つまり、どこまで書くと下品になるかですよね。その寸止め具合は、吉本新喜劇や『週刊少年ジャンプ』などを読んで研究しました」

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