全裸監督もビックリ!? 「万葉集」の中の「エロ」い人妻たち

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 AV界の巨人、村西とおる監督の人生を描いたNetflixで配信中のドラマ「全裸監督」が大きな話題となっている。村西監督の全盛時を懐かしむ世代はもちろんのこと、まったく知らない若い女性までもが、その異能ぶりや極端な生き方に興味を持つ事態になっているのだ。

 眉をひそめる向きもいることだろうが、AVが日本の誇るコンテンツ産業の一つなのは間違いない。その生産量、クオリティは世界でも有数である。日頃「反日」の近隣諸国でも、日本のAV嬢は人気だという。

 なぜこのジャンルで日本は強いのか。もちろん村西監督らパイオニアの存在は大きいだろう。一方で、もう少し昔の文化にまで言及する分析もある。江戸時代の春画に代表されるように、かねてから日本人は性を芸術的に表現するのに長けていた、その伝統があるのだ、といった見方である。

 そしてさらにさかのぼれば、「実は『万葉集』もそうとう性的な要素が大きいのです」と指摘するのは古典エッセイストの大塚ひかりさんだ。大塚さんの新著『エロスでよみとく万葉集 えろまん』はタイトル通り、かの「令和」のもとにもなった「万葉集」から、エロ目線で歌をピックアップし、現代語訳した一冊である。

 そこで紹介されている歌の数々はたしかに「エロ」い。古語なので格調高く響くのだけれども、現代語にすると、村西監督もビックリの歌が詰まっているのだ。

 今回はその中からAVでも人気の「人妻」をテーマにした歌を紹介してみよう。大塚さんによれば、人妻をテーマにした歌は「万葉集」の中で14例。

 そのすべてが「エロい」のだという。同書からいくつか紹介してみよう。現代語訳は大塚さん。

 まずはこの歌。

「人妻にあんで触れちゃなんねぇだべ? そんだら隣の着物を借りて着ないっちゅうべ?」
【巻第14・3472】

「人妻と あぜかそを言はむ 然(しか)らばか 隣の衣(きぬ)を 借りて着なはも」

 少し補足すると、「隣の着物は借りるんだから、人の妻だって借りていいでしょ」という意味。上流階級を含め、人妻との交渉はさしたる重罪とは思っていなかったのが当時の日本人で、律令が導入されてはじめてタブーとなったという背景がある。

 さらにこんなものも。伝承歌人、高橋虫麻呂の作品だ。

「人妻と俺も交わる。俺の妻に皆も言い寄れ。この山を治める神が昔から認めた祭りだ。今日だけはつらいことでも目をつぶり、何も咎めないでくれ」【巻第9・1759・長歌の一部】

「人妻に 我(わ)も交はらむ 我が妻に 人も言問(ことと)へ この山を うしはく神の 昔より 禁(いさ)めぬ行事(わざ)ぞ 今日のみは めぐしもな見そ 事も咎むな」

 人妻と交わることは山の神だって認めているのだ、と宣言しているのだ。

 次は立派な貴族、大伴安麻呂

「神木にも手ぐらい触れていいというのに、むやみに人妻だからといって触れていけないものなのか? そうじゃないだろ」【巻第4・517】

「神木(かむき)にも 手は触(ふ)るといふを うつたへに 人妻といへば 触れぬものかも」

 もちろん、人妻への思いをためらう歌もある。

「命をかけて恋したあなたは、聞けば人妻とか。悲しいなぁ」【巻第12・3115】

「息(いき)の緒(を)に 我(あ)が息づきし 妹(いも)すらを 人妻なりと 聞けば悲しも」

 ここまでならモラルに厳しい現代人でもすんなり受け止められる内容である。問題は、この歌への人妻からの返答だ。

「私のためにそんなに落ち込まないで。未来永劫ずーっと逢わないと言ったわけでもないんだから」【巻第12・3116】

「我(わ)が故(ゆゑ)に いたくなわびそ 後(のち)つひに 逢はじと言ひし こともあらなくに」

「断るわけでもなく、気を持たせている。これでは男性側は諦められないでしょう」(大塚さん)

 あの「万葉集」をエロ目線で語るとは何事か――真面目な方は怒るかもしれない。しかし大塚さんによれば、ここにこそ「万葉集」の特徴があるという。「万葉集」に多大な影響を与えた漢詩と比べると、恋歌の数がやたらと多いというのは中国生まれの学者・彭丹氏も指摘するところだという(『いにしえの恋歌』)。そう考えると、やはりこの分野、古来より日本人が得意とするものだったということになる。難しく考えずに、「ナイスですね~」と万葉集を楽しんでみてもいいのではないか。

デイリー新潮編集部

2019年9月2日掲載

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