「いつかは来ると思っていました」 大麻所持の家宅捜索でマトリが踏み込んだ時に交わされた会話 過去事例から解説する

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 俳優・永山絢斗が大麻所持の容疑で警視庁に逮捕された一件は、驚きを持って受け止められた反面、「またか……」といった声も多く聞かれた。毎年のように誰かが逮捕され、出演作や楽曲の扱いが議論される、というのはもはや芸能界の風物詩になっている観すらあるのではないか。

 今回は、内偵対象となっていたことが事前に一部に漏れていたようで、路上で浮かれる姿や、捜査員が自宅に乗り込む様子をカメラに収めているメディアもあった。

 有名人の薬物事件では、このような報道が時折見られるが、さすがに家宅捜索の内部の様子を知る機会は少ない。あるとすれば、「警視庁24時」の類の密着ドキュメンタリーのワンシーンくらいだろうか。

 実際に捜査員が踏み込んだ際には、現場でどのような展開が待っているのか。

 約40年間も捜査の第一線で戦ってきた元麻薬取締部部長・瀬戸晴海氏の著書『マトリ―厚労省麻薬取締官―』の中で、著者がその再現をしている貴重なシーンをご紹介しよう。

 いかに「所持」している側が軽い気持ちでいるのか、そしていかに、その代償や危険性が大きいのかがわかるはずだ。(以下、同書をもとに再構成しました)

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明るい容疑者

 最近の大麻事件、とりわけ大麻栽培の実態について、麻薬取締部の検挙事例を取り上げながら具体的に解説を加えることにしたい(ただし、今後の捜査への影響と関係者のプライバシー保護を考慮し、現場のシチュエーションは若干変えてある)。

 2017年秋、麻薬取締官十数名が都内の大麻栽培者宅に踏み込んだ。閑静な住宅地に位置する、広さ2LDKの賃貸マンションだ。被疑者は30代の男性会社員Q。独身で、前科の類はない。ドアを開けたQに捜査員が令状を示す。すると、Qは抵抗するどころか、

「いつかは来ると思っていました。大麻は規制されているから仕方ありませんね。でも私が栽培しているのはトマトです……。なんて冗談! さぁ、どうぞ」

 と軽口を交えながら、自ら部屋を案内し始めた。おそらくQは大麻を吸っていたのだろう。室内には淡い大麻の臭いが漂う。Qはまずリビングで「そこそこ」と指をさした。

 その場所には、高さ2メートル×幅2メートル×奥行1メートルという、ナイロン地のファンシーケースが置かれていた。捜査員がケースのジッパーを下ろすと、青臭く、少し甘ったるい大麻臭が鼻をつく。そこには、青々とした鉢植えの大麻草が5株ほど栽培されていた。草丈1メートルはあるだろう。光を拡散させるため、テントの内側には反射シートが貼られ、一面銀色である。ケースの上部には、太陽光に近いナトリウムランプが吊り下げられており、タイマーがつけられている。これで照射時間(日照時間)を調整し、大麻が開花する「秋」を人工的に作り出して刈り入れるのだ。温度調整のためのヒーターや、空気を循環させる扇風機も備え付けられ、温度計と湿度計も揃っていた。

 充実した設備を前に、捜査員が呆気に取られていると、Qは穏やかな口調で「これは自信作です」と語った。悪びれた様子は全くない。

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