【永山絢斗逮捕】「大麻は無害」という大きな勘違いを元マトリ部長が徹底批判!

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 6月16日、俳優・永山絢斗が大麻所持の容疑で逮捕された。兄の永山瑛太は取材に対して「俺は許さない」と厳しいコメントを口にしたと伝えられているが、周囲に与える影響を考えれば当然の反応だろう。

 ところが一方で、逮捕早々、擁護するようなコメントを出している有名人もいるようだ。元俳優で格闘家の高岡蒼佑は、「絢斗くん頑張れよ。挫けないで。(略)こんな一俳優の、可愛い遊びで、極悪人みたいに絶対したらダメ。毎日報道していたら、物凄い犯罪者みたいに見えるだろうけど、そんな事ないですから」という独自の見解をインスタグラムで発表。

 大麻に関しては「海外では認められている」「タバコよりも健康被害が少ない」といった主張をする人は珍しくない。そのような立場からすれば、今回の一件も「可愛い遊び」ということにもなるのだろう。

 だが、実際のところはどうなのか。

 長年、薬物捜査の第一線にいた瀬戸晴海・元関東信越厚生局麻薬取締部部長は、自著『マトリ―厚労省麻薬取締官―』の中で、このような「大麻はOK」といった見方を強く批判し、警鐘を鳴らしている。大麻擁護論、あるいは大麻合法化論のどこが問題なのか。同書をもとに見てみよう(以下、『マトリ』から引用、再構成しました)。

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世界で最も乱用されている薬物

 すでに米国ではカリフォルニア州やコロラド州など八つの州と、首都であるワシントンD.C.において嗜好用の大麻が解禁されている(2017年3月現在)。そして、カナダでも2018年10月17日から大麻の所持、使用が合法化された。国が嗜好用大麻を合法化するのは、先進7カ国では初の事例だ。

 我が国でも大麻解禁を求める声はあり、今後、「カナダでは大麻が合法化されたのに、日本ではなぜ厳しく取締るのか」という声が高まる可能性は否定できない。そこで、元マトリの捜査官として、大麻の抱える問題について指摘したい。

 まず重要なのは、世界で最も乱用されている薬物が大麻だということだ。その名の通り、大麻は麻(あさ)のことで世界中に広く自生しており、日本を含む多くの国々で古くから繊維の原料に利用されてきた。

 覚醒剤やコカインなどの「興奮系薬物」とは異なり、大麻は抑制効果をもたらす「幻覚系薬物」と分類される。摂取すると酩酊(めいてい)作用が現れ、充足感、陶酔感、リラックス感を覚えるだけでなく、視覚や聴覚が変容して様々なイメージや観念が湧き出す。

 他方、大麻の常習は、知的機能の低下、無動機症候群(注意力や集中力が低下し、無気力感に囚われる抑鬱状態のこと)、さらに人格変容を招くとされる。その危険性から、国際レベルで所持、栽培、輸出入等が規制されている。日本では1960年代にアメリカのヒッピー文化の影響を受けて乱用が始まったと推測されるが、実はいま、この大麻がかつてない流行の兆しを見せている。

 大麻事犯の検挙者数は2009年をピークに13年まで減少を続けていた。しかし、14年に増加へと転じると、15年には2000人を突破、17年には3000人を超え、18年には3700人を超えて、過去最多となるに至った。

 その要因は、どこにあるのか。

 社会問題にもなった危険ドラッグの販売店舗が取締りの強化によって全滅し、危険ドラッグを使用していた者が大麻に移行、または戻ってきたとの見方もできる。加えて、諸外国における「大麻合法化」の動きに乗じて、大麻乱用を推奨するかのような情報がネット上に氾濫(はんらん)していることも大きな要因と分析できる。

 結果、「大麻は無害」との誤解のもと、若者が大麻に走っているのだ。

「音楽を聴いたときの感覚が繊細になって奥行きが生まれる。音に包まれるイメージ」

 そう説明する使用者もいる。確かに、若者が熱狂する音楽シーンでは常に大麻の存在が見え隠れしてきた。

 私と同世代の読者ならば、1969年夏の「ウッドストック・フェスティバル」をご存知だろう。会場には40万人を超える観客が押し寄せ、音楽史に残る稀代のコンサート、カウンターカルチャーの象徴と評された。ジミ・ヘンドリックス、サンタナといった30組以上の大物アーティストが出演。私も夢中でレコードを聴き、ドキュメンタリー映画を観た記憶がある。60年代は米国で急速に大麻が広まり、「ウッドストック」でも大麻やLSDが飛び交っていたと聞いている。

「あの時は大麻ハウスが建てられて、大麻が堂々と売買された。ウッドストックを機に、野外コンサートに大麻を持ち込むことが一般的になった」

 と米国のベテラン捜査官は話していた。近年の日本の野外コンサートも状況は似ており、会場で堂々と大麻を吸煙し、警戒中の麻薬取締官に検挙される者も散見される。若者が大麻に走るのは、その効果のみならず、大麻を取り巻くファッション的な要素に魅せられるからであろう。検挙者のなかには高学歴者が少なくない点も、他の薬物とは趣きが異なる。「大麻こそがサブカルチャーの原点」と語る者もいるほどだ。

密輸から「栽培」に

 このところ増加の一途を辿る大麻事犯には、大きく分けて二つの特徴がある。一つは「栽培事犯」の増加。次に「効き目が桁違い」の大麻が出回り始めたことだ。

 一点目を補足すると、現在、麻薬取締部が検挙した大麻事犯のうち、3割が栽培事犯である。栽培した形跡のある者、または栽培に言及した者を含めると5割近くに及ぶ。

 2015年の大麻草(栽培中のもの)の押収量は3739株だった。それが、16年には1万9944株に急増し、17年も1万8985株と、2年連続で2万株に迫っている。私の約40年の麻薬取締官人生を振り返っても前例のない事態である。

 麻薬取締部では、成熟した1株の大麻草から、薬物として使用可能な部分が約500グラム採取可能と推計している。押収した2万株が全て順調に成熟すれば、計算上は約10トンが採取可能ということになる。これは、一般的なジョイント(大麻たばこ)1本の使用分を約0.5グラムと考えた場合、なんと2000万回分に相当する。乾燥大麻1グラムの末端価格を5000円とすれば、10トンでは500億円に上る。

 つまり、大麻については密輸に依存せず、日本国内での生産で需要を賄える状況になりつつあるということだ。現実に、従来のような大型密輸は激減している。

 実際、日本でも大麻の屋内栽培が定着し、一定の知識と技術をもった者が押入れやクローゼットを改造して栽培に精を出している。「栽培ハウス」や「テント」と呼ばれるビニールケースが販売され、海外から全自動型栽培ボックスを仕入れる者もいるが、ホームセンターで買える園芸用の器材でも栽培は可能だ。組織的な大型栽培事件では、民家一軒を用いて「大麻プラント」とでも言うべき大規模栽培を行っていたケースもある。

 大麻草は一年草で、屋外では初夏に種を蒔き秋に収穫する。他方、屋内栽培では、太陽光に似た人工照明で光を照射する時間を調整することで、栽培期間を大幅に短縮できる。上手くすれば年間3、4回の収穫も可能だ。近年の使用者は、大麻への興味が深まるにつれ、栽培に手を染めていく。自分で栽培するようになると、大麻に対する思いが一層深まる。手塩にかけた大麻草が逮捕によって押収され、朽ち果てることにショックを受ける者も少なくない。心情は分からなくもないが、事件の証拠品なので致し方がない。

 二点目に話を進めよう。この4、5年の傾向として、大麻使用者が、より効き目の強い大麻を求めるようになっている。実際、強烈な効き目を持つ大麻が出回るようになった。

 例えば、同じ大麻草でも乱用部位がリーフ(葉)から、バッズ(Buds=つぼみ・芽の意味)に移った。バッズとは、大麻草の中でも幻覚成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」を最も多く含む花穂(かすい)部分を指し、密生した葉の塊のように見える。ここ数年で麻薬取締部が押収した乾燥大麻は、ほぼ100%このバッズだ。大麻は一般的にリーフのイメージが強いが、現場の感覚からすると、リーフはもはや過去の遺産だ。

 それ以外にも、大麻のTHC成分を抽出した「大麻ワックス」や「大麻リキッド」と呼ばれる「濃縮大麻」も乱用されている。大麻ワックスや大麻リキッドは、ごく微量で強烈な効果が出ることから、使い方を誤れば麻薬類に匹敵する危険性を有する。しかも、海外では大麻草自体の品種改良も進み、より高濃度のTHCを含有する大麻が現れている。ここ数年で、大麻そのものが急速に変化し、危険性を増しているのは事実だ。

大麻はきっかけになる

 大麻は、「gateway drug(門戸開放薬)」と言われる。大麻の使用が、他の違法薬物の使用に繋がる重要なステップになるということだ。

「大麻使用者の26%が、他の違法薬物を使い始めた」という米国の研究結果もある。現場捜査員の感覚からしても、この指摘は的を射ているように思う。

 近年、麻薬取締部が検挙した大麻事件では、約20%が他の薬物を所持したり、実際に使用したりしていたと供述。大麻使用者が同時に所持していた薬物は、覚醒剤が半数を占め、次いでコカイン、LSD、危険ドラッグが挙げられる。また、大麻事犯での検挙者は、覚醒剤事犯の検挙者と比較して初犯者が多く、暴力団員が少ないのが特徴で、年齢層も30代以下が約半数を占める。こうした実情を踏まえても、大麻は若者が手を出し易い「gateway drug」と言えるだろう。

 2017年に国立精神・神経医療研究センターが実施した「薬物使用に関する全国住民調査」で興味深い結果が示されている。

「大麻の生涯経験率が上昇し、モニタリング期間中、最も高い数値となった。大麻の推計使用人口は133万人(覚醒剤は50万人、危険ドラッグ22万人)。10~30代で大麻使用を容認する考えを持つ者が増加。国内で大麻が最も乱用される薬物となったと言える。大麻使用者の増加が一時的なものか、或いは大麻を中心とする欧米型への構造的な変化と言えるのか、今後、モニタリングを継続しながら判断していく必要がある」

 我々世代の「gateway drug」といえばシンナーなどの有機溶剤だった。読者も「シンナー遊び」という言葉を記憶しているのではないだろうか。これが時代の流れのなかで変化を遂げ、現在は大麻なのである。

 ネット社会が日毎に進化・拡大するなかで、若者は様々な情報を吸収していく。そのなかで、ミステリアスでカッコいい存在として大麻が持て囃(はや)されている印象を受ける。ここに大麻流行の原点があるのではないか。20代の大麻を経験した者はこう語る。

「シンナーなんてイメージが暗くてカッコ悪い。大麻と一緒にしないでほしい。大麻はマリファナ、グラスにハッシュと、まず名前がカッコいい。ブッダスティックとかインドっぽくてお洒落。種子にしてもカリフォルニアオレンジ、スカンク、アフガン、ホワイトウィドウだからね。大麻はアーティスティックで神秘的で、音楽やラスタファリズムともリンクする。世界では合法化が進んでるし、悪い物とは思えない。最近ではヘンプ(Hemp=大麻のこと。麻の繊維という意味で使われる)という言葉もよく耳にする。ヘンプジュース、ヘンプビール、ヘンプオイル。とてもヘルシーなイメージだよね」

 彼はおおよそネットの情報だけで大麻を学んだという。私は彼と話して「なるほど」と頷くとともにネットの恐ろしさを改めて痛感した。

「大麻合法化」は苦肉の策

 さて、最後に海外のいわゆる大麻合法化(以下、合法化)について、少し解説しよう。

 先に述べた通り、2018年6月、カナダのトルドー首相が大麻の所持・使用を同年10月に合法化すると発表した。トルドー首相は、「大麻の不正取引で犯罪組織が年60億カナダドル(約5000億円)もの利益を得ているという推計もある」と指摘。「現行法は、子供たちを守るために機能していない」と、嗜好用大麻解禁の正当化を主張した。法案の内容はこうだ。

〈18歳以上には最大30グラムの乾燥大麻の所持を許可する。個人使用目的での栽培も認める。ただし18歳未満の未成年者への販売・譲渡には最大14年の禁固刑を科す〉

 すでに大麻が合法化されているウルグアイやアメリカ各州では、これに便乗した大麻ビジネスも登場している。カナダの大麻政策の転換を受け、米・コロラド州デンバーに本社を置く大手ビール会社「モルソン・クアーズ・ブリューイング」は、「大麻入り飲料」分野への参入を検討していると報じられた。大麻を合法化すればこうした新たなビジネスチャンスが開けるのだ。

 だが、そもそも、どうしてカナダは大麻を合法化したのか。

 私見だが、大麻を合法化「した」のではなく、「せざるをえなかった」というのが正しいと思う。カナダが合法化に至った経緯を私なりに解釈すると以下のようになる。

○大麻乱用が爆発的に広がり、取締りが限界に達していた。

○しかも、大麻の収益の多くが犯罪組織に流れ込んでいる。

○大麻はヘロイン、コカイン、覚醒剤と比較して依存性が低い。

○それならば、アルコールやタバコと同じ位置づけで国の管理下に置き、犯罪組織に膨大な資金が流れることを阻止すべきではないか。

○合法化して国が管理することで若者の大麻使用も抑制できる。

○新たな大麻ビジネスを容認する代わりに課税すれば、税収増にも繋がる。

 端的に言えば、「大麻合法化」は苦肉の策なのである。決して、ヘルシーで、嗜好品として優れ、依存性がなく、健康被害がない、などという理由で解禁されたのではない。大麻が「gateway drug」の役割を担っているのは事実であり、他の麻薬を凌駕するほどTHC濃度の高い大麻の存在も懸念される。カナダ国内でも合法化については民意が二分している。当然ながらINCB(国際麻薬統制委員会)は危機感を募らせ、ロシア外務省はカナダが国際的義務に違反していると非難する。

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 もちろんこうした専門家の意見に反論したいという向きもいるのだろう。

 ただ、いかに「海外では~」「医学的には~」と理屈を言ったところで、日本においては大麻所持は犯罪であり、逮捕された時点で人生が暗転するのは疑いようのない事実なのである。

※瀬戸晴海『マトリ―厚労省麻薬取締官―』(新潮新書)から一部を引用、再構成。

デイリー新潮編集部

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