【袴田事件再審】ボクシング仲間が証言する“20歳の巖さん”「根性があって打たれ強かった」

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今も巖さんを犯人と思い込む事件現場周辺の人たち

 この日、広田さんと共に話を聞いた巖さんの支援者の女性は、「事件が起きた地域の人の中には、今も袴田さんが犯人だと信じている人もいるんですよ。支援活動をしている私に苦情を言う人もいます。そりゃあ当時あれだけの報道をされれば、無理もないかもしれません」と話した。

 山崎さんは「事件が起きた横砂地区は、住んでいる人たちの地縁血縁や地区の様子が当時からほとんど変わっていない。僕でも姓を聞けば、大体あのあたりの出身とかわかります」と話した。横砂地区は事件で殺害された「こがね味噌」の橋本藤雄専務と同じ橋本姓をはじめ同じ姓の人が非常に多く、地縁血縁の強い地域だった。

 広田さんの妻は「今でも主人は袴田さんに関するニュースはみんな見ていますよ」と話す。2014年3月に静岡地裁が再審開始を決定し、袴田さんが48年ぶりに釈放された時もニュースを食い入るように見ていたという。

 そしてある時、広田さんは巖さんに会いに行った。残念ながら巖さんは拘禁反応の影響が強く、国体で一緒に活躍した広田さんのことを覚えていたかどうかも定かではない様子だったという。

「『おーい、広田だよ』って言ったんだけど、なんだかぽかんとしていたな」

 広田さんを取材したのは今年3月3日のことだった。3月20日に東京高裁(大善文男裁判長)で再審開始決定があり、検察は抗告を断念した。

 4月26日、遅まきながら広田さんに感想を聞いた。

「もう手放しで喜んでニュースを見てたよ。袴田君がや(殺)っていたはずなんかないんだ。無実に決まってるんだから当然だよ」と元気な声で話してくれた。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

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