「スマホ依存」で子供の眼球が変形? 10人に1人が失明予備軍との試算も スマホ失明から身を守る方法

ドクター新潮 ライフ

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スマホのせいで眼球がラグビーボールのような形に

 そもそも、近視は、目の表面にある「角膜」から網膜の中心「黄斑部」までの距離を指す「眼軸長(がんじくちょう)」が伸びてしまうことで起こります。日本人の眼軸長は男女ともに平均約24ミリであり、これより数分の1ミリでも眼軸長が長くなると網膜より手前でピントが合ってしまう。そのため遠くがボンヤリとしか見えない「近視」が起こるのです。このように眼軸長が伸びることで起こる近視を「軸性近視」と呼びます。

 そして、この眼軸長が伸びてしまう原因の一つが「近業(きんぎょう)」、すなわち、目と対象物との距離が30センチ以内で行われる作業です。例えば、読書やスマホ操作ですね。

 ただ、われわれ大人は近くでモノを見ようとしても、ある程度距離がないとピントが合いませんよね。対象物を目に近づけすぎると、逆に文字などを判読できなくなってしまいます。

 ところが、子どもはそれができてしまう。彼らの眼球はまだ柔らかく変形しやすいため、眼球を変形させることで無理やりピントを合わせてしまうのです。そんな状態で活字や画像、動画を見続けると、ピントを合わせるために眼球は後ろ側に大きく変形してしまい、結果、眼軸長が伸びてしまうことになります。

 眼球というのは本来、きれいな球形をしているものですが、スマホなどによる近業時間の増加により、眼球が後ろに伸びてしまいラグビーボールのような形になる子が増えている。これが強度近視なのです。

近視対策が難しい理由

 さらに、眼球が変形すると目の奥にある視神経や眼底が圧迫されて、近視どころではないさらに深刻な病気を引き起こす可能性もあります。また、眼軸長が伸びることで網膜が引き伸ばされ、万が一、破れたりちぎれたりすれば、視力に重大な影響が生じることになるのです。

 眼軸長が伸びるのは子どもだけではありません。最新の研究では、大人になってからも眼軸長が伸びることが分かっています。つまり成長期が終わっても近視は悪化し続けることになる。成人の眼軸長の伸び方は成長期の子どもの10分の1程度といわれますが、それでもスマホなどを至近距離で見る近業を続けていれば視力を失う事態も起こりかねないのです。

 どうでしょう。これで近視が深刻な病気だということがお分かりいただけたでしょうか。

 ただ、このような深刻さを理解していても、近視対策というのはなかなか難しい。それは、近視対策が人間の心理を無視したデザインで提供されていることにあると私は考えています。

 一体、どういうことか。

 私たち人間は、「未来の大きな価値」よりも「今現在の小さな価値」を好むように行動がプログラムされています。例えば「今すぐもらえる1万円と1週間待ってもらえる1万100円、どちらを選びますか」と聞かれた場合、前者を選ぶ人がかなり多くいるのです。このような人間の心のありようと経済行動を研究するのが行動経済学という学問です。

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